かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

山下敦弘監督『オーバー・フェンス』を見る(9月19日)。



午前、的場(埼玉県)の娘夫婦のところへいって、双子の遊ぶのを見る。娘の子守りの手伝いで妻は残り、ひとり「シネ・リーブル池袋」へ山下敦弘監督『オーバー・フェンス』を見にいく。



山下敦弘作品は、インディーズ時代の作品からおもしろく見ている。今回は、佐藤泰志の原作を映画化するということで、たのしみにしていた。山下敦弘監督の作品は、生きるのに不器用なひと、もどかしいようなひとがていねいに描かれる。メジャー作品を撮るようになっても、そういう初期からの持ち味を失っていない。


今回は、職業訓練学校へ通っている白岩義男(オダギリ・ジョー)と、昼は遊園地、夜はキャバクラに勤める田村聡(蒼井優)の交流が中心に描かれていく。


白岩は、妻と娘がいるが、いまはアパートでひとり暮らし。仕事が忙しくて、妻が育児ノイローゼになっているのを気づくことができなかった。白岩がその日たまたま早く家へ帰ると、妻は、小さな娘の顔に枕をあてていた。未遂でとめることができたが、それから夫婦の心には亀裂がはいってしまった。


蒼井優演じる田村聡(おとうさんが、「サトシ」という男のような名前をつけたのだ、と聡本人がいっている)は、感情の起伏が激しく、いまたのしく話していたかとおもうと、突然激昂して白岩をののしる。このふたりが一緒になっても、とても平穏な生活を保てそうもないだろう・・・。


映画はスジらしいスジはなくて、白岩の職業訓練所での仕事の様子や田村聡とのデート(いつも聡が激情的になって、デートは無事のままでは終わらない)や訓練校へ通う仲間同士のつきあいが描かれていく。皆んなどことなく鬱屈したものを抱えて生きているひとたちばかり。


教官だけが夢中で、職業訓練工たちは、息抜きなのかめんどうなのか、よくわからない職場対抗のソフト・ボール大会を控えている。訓練工たちはムリに練習をやらされているが、あまり熱心ではない。


それでも、妻子のいる中年訓練工の勝間田(鈴木常吉)は、ソフト・ボール大会に家族をよぶ。白岩も、まだ恋人かどうか微妙な関係の聡をよんだ。


しかし、その聡が、試合がはじまってもまだ姿を見せない。白岩は、聡がくるかどうか気になってしかたがない。勝手な気持ちだが、聡がやってきたら、何かわからないがものごとがいい方向へ運ぶような気がしている・・・。


試合の途中で映画は、終わるけれど、それで何かが特別変わったり、解決したわけではない。登場人物たちは、たぶん明日も今日の続きを生きていくことが予感される。


『オーバー・フェンス』予告篇↓
https://www.youtube.com/watch?v=FxGkhS54bCg



18日に見た李相日(リ・サンイル)監督の『怒り』は、激しい濃厚な味わいの傑作だったが、山下敦弘監督の、心の底に爆弾をかかえながらも、それを封じ込んで日々を暮らしているひとびとを描く『オーバー・フェンス』も、地味で何も起こらないからこそ味わえる共感がある。