このところ4本の丹下左膳映画をみました。
年代順に並べると、、、
- 山中貞雄監督『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』(1935年)
- 脚本:三村伸太郎
- 出演:大河内伝次郎、喜代三
- 松田定次監督『丹下左膳』(1952年)
- 津田豊滋監督『丹下左膳 百万両の壺』(2004年)
- 本木克英監督『丹下左膳』(2004年)
★ ★ ★
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まずは、山中貞雄監督の『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』(大河内伝次郎主演)。この映画は、林不忘の原作や、それまでの丹下左膳シリーズにあった、片目片腕を失い、化け物のようになったニヒリスト・丹下左膳のイメージをこわしてしまったそうですね。
なるほどなるほど。現存している山中貞雄監督作品3作のなかでは、彼のユーモア感覚を一番たのしめる映画ではないか、とおもいます。
大河内伝次郎演じる左膳は、チャンバラはかっこいいが、それ以外はユーモラス。気の強い伴侶・お藤に尻を敷かれる恐妻家(笑)。この作品、古い映画なのに、シャレていますが、それは、左膳とお藤の丁丁発止、テンポのいい会話の応酬と、次にあるような見事な場面転換にあるとおもいます。
たとえば、みなし子になった<ちょび安>を、左膳はかわいそうだから、うちに引き取って育てたい、とお藤に相談する。
「いやだよ。あんな薄汚い子供。とっととどっかへ棄ててきな。あたしゃ、子供が大嫌いさ」とお藤は容赦なく切り捨てる。
が、、、
次のシーンでは、ちょび安はご飯を食べていて、「いっぱい食べるんだよ」というお藤を映している(笑)。
この言っていることとやっていることの矛盾の展開が映画全編にあって、とてもゆかいな効果をあげています。
千葉伸夫著『評伝・山中貞雄』のにわか知識ですけど、三村伸太郎の脚本の功績も大きいようです。17年後の松田定次監督の『丹下左膳』(阪東妻三郎主演)より、映画的なおもしろさがありました。
★ ★ ★
近年の丹下左膳は、豊川悦司左膳と中村獅童左膳とが同じ2004年に競合して、つくられています。個性的な俳優の対決で、それぞれいったいどのような丹下左膳映画になっているのか興味がありました。
で、実際見てみると、津田豊滋監督『丹下左膳 百万両の壺』(豊川悦司主演)は、山中貞雄監督『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』のほぼ忠実なリメイク。
飄々とした左膳に豊川悦司はぴったりですし、気の強いお藤を演じるツンツンとした和久井映見が可愛いのです(笑)。オリジナルの二人のやりとりの可笑しさをそのまま継承し、あざやかな場面展開も同じく効果をあげています。
山中貞雄版と同じじゃないか、といってしまえばそうなのですが、若いファンに丹下左膳映画を見てもらうには、十分の出来栄えではないか、とおもいます。やっぱり三村伸太郎のオリジナル脚本がいいのでしょうか。
本木克英監督の『丹下左膳』(中村獅童主演)は、正確には映画ではなく、テレビ版のようですね。でも、フィルムで作られた映像なので、ビデオ・ドラマのような違和感はありませんでした。
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中村獅童の左膳は、豊川悦司版のようなおっとりとした左膳ではなく、激しい恨みをうちに秘めたニヒリストの左膳だ、といいたいのですが、そこはユーモアな左膳の部分も引き継いでいて、中途半端なニヒリストになっています。
立ち回りなどはハデなので、テレビ向きの時代劇かもしれませんが、中村獅童の演技は過剰で、しかし、それよりなによりも、他の作品に比べると、全体のつくりが平板。4作のなかでは、ぼくの好みからもっともはずれていました。