むかし神保町の岩波ホールで、はじめてマイケル・カーティス監督『カサブランカ』(1942年)を見たとき、隣りに友達がいるのに、涙があふれて困った。
緊迫した世界情勢のなかに、年月を経ても色あせない恋愛と、男のクールな友情が、みごとに配置されて、映画として申し分なかった。それから、なんどこの映画を見ただろう。
きわだっていたのは、イングリッド・バーグマンの犯しがたい美しさ。
きのう、クルマから聴こえてきた、知らない女性ヴォーカルの「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」に聴き惚れてしまった。
そして、またあのシーンを想い出す……。
「サム、歌って」とバーグマンがいう。その効果を知っている、謎めいたバーグマンの笑顔。美女の笑顔にサムは抵抗できない。サムが、困惑しながら、禁じられた曲を歌い出す……