7月31日㈪。
カンカン照りの暑さのなか「TOHOシネマズシャンテ」(日比谷)へ『コンサート・フォー・ジョージ』を見にいく。
20年ぶり(といってもDVDで何度か見ているが)に見るジョージ・ハリスン追悼コンサート。同時に、あのころの「ジョージ喪失感」もよみがえってくる。
無料で配布されたパンフのなかに、藤本国彦(ビートルズ研究家)さんが、イラストレーター本秀康さんの言葉を引用している。
ビートルズは「ジョージを成長させるためのバンドだった」
それを知ってはいても、この言葉は大胆で、含蓄がある(笑)。もちろん、ジョージ・ファン以外のビートルズ・ファンから猛烈な反発がくるかもしれない。でも、ビートルズというバンドを見るとき、こういう視点もあるんだな、って本秀康さんは気づかせてくれた。
わたしは、ビートルズ・ファンを59年やっている。時々メンバーのなかで誰がいちばん好きかと聞かれることがある。
そういうとき、最初は「4人」という。そして、さらに問われるとジョージ・ハリスンと答える。
そういえば、藤本国彦氏も、ラジオで一番好きなメンバーをジョージ・ハリスンといっていたな。意外かもしれないが、ジョージは、さりげなく人気があるのだ(笑)。
パンフのなかで、水原健二氏(ビートルズ担当ディレクター)は、ジョージの音楽の魅力を次のように書いている。
「壊れそうな繊細さと優しさと、どこか切なさを湛えた…(略)音楽世界」
さすが、至言。言い得て妙。
ビートルズ時代から、彼の創った曲だけでなく、ギター演奏にもそれを感じた。
わたしは、ジョンの曲でも、ポールの曲でも、ジョージの繊細なギターに心を揺さぶられることが多い。テクニックがどうのこうのいうよりも、その音楽的なセンスに感動するのだ。
ビートルズ解散後のソロの時代、ジョージは、ますます、その「壊れそうな繊細さと優しさと、どこか切なさを湛えた」音楽を深めていく。
商業的に成功しなかったアルバムもあるが、ファンが、かえって、そういう作品を愛おしく想うのは、そのなかにこそ、ジョージの繊細さと優しさが秘められているのを知っているからだろう。
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映画『コンサート・フォー・ジョージ』を見ると、リハーサルに集まったミュージシャンたちが同窓会のような笑顔で、再会を楽しんでいる。ジョージは、すばらしいミュージシャンであるだけでなく、人間としても人望があった。多くのミュージシャンが彼のもとへ集まり、一緒に演奏し、それを誇りにした。
ジョージが亡くなってしまったのは寂しいが、悲しんでいるのをジョージは望まないはず。
ジョージは生前「人生はハスの葉の上の雨粒のようなものだ」といっていた。一瞬で消え去る「はかないもの」、ということだろうが、それを否定的にはとらえていなかったとおもう。それでいい、と考えていたのではないか。
志賀直哉が、晩年行き着いた心境と重ねてみる。
人間というものが出来て、何千万年になるか知らないが、その間に数え切れない人間が生まれ、生き、死んでいった。私もその一人として生まれ、今生きているのだが、例えていえば、悠々流れるナイルの水の一滴のようなもので、その一滴は後にも先にもこの私だけで、何万年遡っても私はいず、何万年経っても再び生れては来ないのだ。しかもなおその私は依然として大河の水の一滴に過ぎない。それで差支えないのだ。
エッセイ「ナイルの水の一滴」全文。
死の直前、リンゴが、最後にジョージに会いにいったときのことを映画『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』(マーティン・スコセッシ監督)で語っていた。
帰るとき、「これから親戚のお見舞いにいくからまたね」といったら、「じゃあ、おれも行こうか」とジョークで返してきた。
もちろん、ジョージは、すでに起き上がれるような状態ではなかったのだ。
リンゴは、映画の中で、このエピソードを話してくれたが、笑いながら、声をつまらせていた。
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ジョージの曲を、みんなで一夜限り歌い演奏する。追悼コンサートだけど、ジメジメした空気はない。
バンドは腕利きのミュージシャンがバックを固める。エリック・クラプトンはほとんどステージへ出づっ張りだ。少年ジョージ・ハリスンがいるぞ(息子のダニー・ハリスンだ)。
ただラスト・ソングでジョー・ブラウンが「夢で逢いましょう」をウクレレを弾きながらひとりで歌うとき、参加ミュージシャンも、ライブ会場や映画館の観客もし〜んとした。
ジョー・ブラウンの声に、静かに耳を傾ける。
【夢で逢いましょう】
孤独な日々が続いた
黄昏が今までの幸せを歌い出す
もうすぐ僕は瞳を閉じて
安らぎを得るだろう
そして毎晩夢の中では
君がそばにいてくれる
夢の中で会おうよ
夢で君を抱きしめるから
誰かが僕の腕の中から君を奪い去っても
僕は君の魅力にゾクゾクしてる
昔は僕のものだったその唇
優しく輝くその瞳
そんな存在が僕を助けてくれる
夢の中で会おうね
(対訳:Rollingonta)
会場全体に紙吹雪が降ってくる。どんどん降ってくる。会場に飾られたジョージの大きな写真もみえなくなるほど降ってくる。
すばらしいコンサートだったが、唯一残念なのは、主役がここにいないこと。もちろん、ジョージ・ハリスンが…。
『ボブ・ディラン、デビュー30周年コンサート』のように、最後に主役が出てきたらいいのに、とおもう。
ジョージは、自作のインド音楽をステージで演奏したことはなかった。それをジェフ・リンとアヌーンシュカ・シャンカール(美しい!)が実現してくれた。
「ジ・インナー・ライト」をアヌーンシュカ・シャンカールのすばらしいシタール演奏をバックにジェフ・リンが歌った。これもこのコンサートのハイライトのひとつだった。歌詞は老子の思想をヒントにしているという。
【ジ・インナー・ライト】(ジョージ・ハリスン)
遠くへ旅するほど知ることは少ない
本当に少ない
ドアから出ることなく
世界中のどんなことでも知る事ができる
窓から外を見ることなく
天国への道を知る事ができた
遠くへ旅するほど知ることは少ない
本当に少ない
旅することなく到着する
見ることなく全てが見える
何もせずに全てをする
(「オレの歌詞和訳」より)
https://kashiwayaku.net/thebeatles/theinnerlight.php
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【演奏曲目】
- オープニング「サーブ・シャーム」
- 「アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー」(ジェフ・リン)
- 「恋をするなら」(エリック・クラプトン)
- 「タックスマン」(トム・ペティ&ハートブレイカーズ)
- 「ハンドル・ウィズ・ケア」(トム・ペティ、ジェフ・リン、ダニー・ハリスン)
- 「想い出のフォトグラフ」(リンゴ・スター)
- 「ハニー・ドント」{リンゴ・スター}
- 「シット・オン・マイ・フェイス〜ランバー・ジャック・ソング(モンティ・パイソンwith トム・ハンクス)
- 「ヒア・カムズ・ザ・サン」(ジョー・ブラウン)
- 「ホース・トゥ・ザ・ウォーター」(ジュールズ・ホランド&サム・ブラウン)
- 「ビウェア・オブ・ダークネス」(エリック・クラプトン)
- 「イズント・イット・ア・ピティ」(エリック・クラプトン&ビリー・プレストン)
- 「フォー・ユー・ブルー」{ポール・マッカートニー)
- 「サムシング」(ポール・マッカートニー&エリック・クラプトン)
- 「アルパン」(指揮:アヌーシュカ・シャンカール)
- 「ジ・インナー・ライト」(ジェフ・リン&アヌーシュカ・シャンカール)
- 「マイ・スウィート・ロード」(ビリー・プレストン)
- 「オール・シングス・マスト・パス」{ポール・マッカートニー)
- 「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」(ポール・マッカートニー&エリック・クラプトン)
- 「夢で逢いましょう」(ジョー・ブラウン)
(DVDやCDにはいっていた全部が劇場版には収録されていない。しかしそれでも、中身の詰まったライブだった)
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(映画の「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」のシーン。ポールの印象的なピアノ演奏からはじまる…)
www.youtube.com
やっぱり最後にジョージの歌と演奏が見たい聴きたい。「チャールス皇太子、ダイアナ妃が主催するチャリティ・コンサートに、ジョージはリンゴ、クラプトンと出演(1987年)。
www.youtube.com
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【追記】
「映画.com」の『コンサート・フォー・ジョージ』に次のようなレビューの投稿がのりました。記録にとどめておきたいので、追記させていただきます。
【梨剥く侍さん】の投稿
ビートルズが結成され、解散し、ジョージ・ハリスンが亡くなり、1年後追悼コンサートが開催され、それからさらに20年という歳月が過ぎ去っている。
オープニングからラストまで何かしらのタイミングで不覚にも何度か泣きそうになった(そのうち少しは実際泣いた)。ポール・マッカートニーがウクレレ、リンゴ・スターがドラムで「サムシング」を演奏するシーンあたりがピークだったかもしれない。
(略)
ひとつ不満を述べれば、歌詞も含めて全編に日本語字幕を付けてほしかった。モンティ・パイソンのパフォーマンスあたりが隔靴掻痒だった。…
(「映画.com」より)
https://eiga.com/movie/99595/review/
【梨剥く侍】さん、ありがとうございます。