殿山泰司の伝記です。以前新藤兼人監督の『三文役者』という映画について書きましたが、その原作がこの本のようです。もっとも映画も本も同じ新藤兼人ですから、どちらが先なのか、ぼくは知らないのですが。
最近殿山泰司のふしぎな魅力に気づくようになりました。彼の自然体の演技がその作品を豊かにしていることにおどろいています。彼が登場すると、そのシーンが真実味をおびてくるのです。
それなのに、そんなことを気づかなければ気づかないで全然困らない。つまり、主演をちっとも邪魔しない、まさに脇役に徹した演技なのですね。
脇役ひとすじの殿山泰司が主演したのが新藤兼人監督の『裸の島』です。これは無声映画の時代ではないのに、一言もセリフがなくて、殿山泰司と乙羽信子の夫婦が、黙々と水を肥竿で山へ運ぶ、という実験作でした。
おひとよしで、断ることが下手……<どうもどうものタイちゃん>と新藤兼人は親しみをこめて呼んでいます。
日本映画には、こんな映画人生を生きた、ちっとも偉そうでない<性格俳優>もいたのですね。