かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

川島雄三監督『洲崎パラダイス・赤信号』(1956年)


洲崎パラダイス 赤信号 [DVD]


東京のことをよく知らないので、洲崎とはどこのことなのかわからないまま映画を見ていましたが、「ウィキペディア」で調べてみると、、、

洲崎(すさき)は、東京都江東区東陽付近の旧町名で、古くは「深川洲崎十万坪」と呼ばれた海を望む景勝地。明治期〜1958年(昭和33年)の売春防止法成立まで吉原 (東京都)と並ぶ都内の代表的な遊郭街が設置され、特に戦後は「洲崎パラダイス」の名で遊客に親しまれた歓楽街であった。


以上のような説明がありました。



職人や芸術家を精巧な筆致で描く芝木好子が、こんな頼りない男と女を描いているのが、意外な発見でした。いつか、この原作も読んでみたいとおもいます。


生活力のない男(三橋達也)と、水商売くずれの女(新珠三千代)の、切れそうで切れない関係を乾いたタッチで描いた秀作。一見意外そうな、二人の俳優のキャスティングが冴えていました。クールなイメージの強い新珠三千代のみごとな変身ぶりが見ものです。


食堂兼居酒屋へやってくるお金持ちの男・落合(河津清三郎)にお酌して、しなだれかかる風情などじつにこの女の背景がよく出ていました。


この落合は、中小企業の社長なのかスクーターに乗ってやってきます。洲崎の遊郭へ繰り込む前に、この食堂兼居酒屋で、景気づけに一杯やっていこうという腹づもり。


それにしても、このころの中小企業の社長とは、スクーターを乗るのが一般的だったのか。成瀬巳喜男監督『稲妻』でも、やはり金回りのいい小澤栄が、スクーターに乗っていました。


この中小企業の社長に、河津清三郎が、演技というより、そのものであるかのように、なりきっています。


新珠三千代は、落合に囲われて、ちょっとはぶりのいい暮らしをはじめます。三橋達也は、嫉妬はしても、どうともすることができない。


この情けなさがいい(笑)。


女の薄情を憎み、自分の不甲斐なさを憐れんでみても、結局何もできず、途方にくれるだけ、、、


しかし、この映画何かさらっとして、ふしぎな明るさとユーモアがあります。川島雄三監督は、ダメ男をじめじめと描いていません。


最後、新珠三千代が、金持ち男を放り出して、また三橋達也のもとへやってくる。これがいいですね。ちょっと金持ち男に走ってみたけれど、この女はやっぱり甲斐性がなくても、三橋達也のダメ男が好きなのです。


二人は、映画の最初と同じく、勝鬨橋の上で、「これからどこへ行こうか?」と、相談しますが、この道行きは、何も希望はないのに、どこかカラッとした明るさを含んでいます。


こちらの、jinkan_mizuhoさんのブログがこの映画を見るきっかけになりました。