久しぶりに成瀬巳喜男監督の映画を見る。長谷川一夫、山田五十鈴主演の芸道もので、以前見た『鶴八鶴次郎』を思い出す。
時は明治、大阪の道頓堀。物資の乏しい終戦の前年(昭和19年)につくられたとはおもえない美しいセットに目を奪われる。
ストーリーは、人気役者で天狗になっている長谷川一夫を、さらに大きな役者に育てるまでの座長の苦心が、厚みのある演出で描かれていく。
芝居のなかで戦争劇が出てくる(日露戦争のシーンか)ことをのぞくと、戦時下の映画という匂いはそれほど感じさせない。人間を描くことに成瀬巳喜男の目が徹している。
素材がツボにはいったときの成瀬巳喜男はやっぱり凄いと思う。