かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

林真理子『RURIKO』を読む。

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浅丘ルリ子の伝記を林真理子が書いている。林真理子の筆力はすごいな。中身はとくに読むに値するもののない、どちらかというとゴシップ記事の延長なのに、読み始めると、グイグイ読まされてしまう。うすっぺらな感じはしない。


女優浅丘ルリ子を、ぼくは小さなころから知っていた。ぼくは小学校のころ、日活映画、石原裕次郎小林旭のファンだったので、よく見にいった。ヒロインにやせっぽっちで可愛い浅丘ルリ子が出ているので、小さなころからこのひとのことは知っていたのに、印象らしい印象はなかった。


石原裕次郎小林旭という二枚看板を中心に、男性アクション映画の全盛期に女優としてスタートした浅丘ルリ子に、彼女の個性を表現する場所はどこにもない。不運だったが、ひっぱりだこの人気女優だった。


浅丘ルリ子は、どの映画でも、均一に、旅立つ男の帰ってくるのを、いつまでも待っている献身的で可愛い女を演じた。セリフはどの映画も同じだ。


毎月1本の映画に出演していたら、役作りなど考えているゆとりもない。浅丘ルリ子は、大女優でありながら、代表作らしい代表作もない、ふしぎな女優だった。


女優としての野心もなく(日活時代の諦観に、彼女の性格の淡白さもあって)、切れ目のない男性遍歴を重ねていく浅丘ルリ子の人生が、描かれていくが、ひとりの女性が生きた、人生哲学や女優論はない。


主な興味は、次のようなことかもしれない。


浅丘ルリ子のかかわった男性、石原裕次郎小林旭蔵原惟繕監督(実名は出てこない)、石坂浩二、若い男優などとの、憧れ、恋愛、性愛、不倫、結婚、離婚などが淡々と描かれている。この男性たちと、実際どのような関係があったのか、なかったのか。



アナーキスト大杉栄伊藤野枝と、その甥・橘宗一(7歳)を虐殺した甘粕正彦は、刑期を終え(犯罪の重さのわりに刑は軽かった)、戦時中、満州映画協会の理事長をしていた。


浅丘ルリ子の父は、この甘粕と面識があり、甘粕から厚意をもたれていたという。そして、甘粕は、少女時代のルリ子を見て、「この子は必ず大女優になるから、しっかり育てなければいけない」と、ルリ子の父に話していた、という。そんな女優浅丘ルリ子誕生前のエピソードが、興味をひく。


浅丘ルリ子は考える。「わたしは、父や甘粕さんが期待したような大女優になれたのかしら?」


読んでから、久しぶりに寅さんの「相い合い傘」を見た。ここでリリーを演じる浅丘ルリ子は、とても存在感がある。