かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

映画『高野豆腐店の春』と尾道の風景。




8月23日㈬。炎暑。
午前、駅前の「コメダ珈琲」で、ホット・コーヒーとトーストのモーニング。『ポール・マッカートニー ザ・ライフ』を読む。だいぶ進んだ。


1970年代、ウイングスの絶頂期(しかし、バンドのメンバーがたえず入れ代わる)から、日本の大麻所持によるポール・マッカートニー逮捕(全コンサートの中止)、ジョン・レノンの死、など、悪夢のような出来事が連続した1980年代へはいる。読んでいても、一番つらい部分。



午後、「イオンシネマ板橋」へ、三原光尋(みはら・みつひろ)監督の『高野(たかの)豆腐店の春』を見にいく。

尾道の町に店を構える高野(たかの)豆腐店。愚直な父、高野辰雄と明るくて気立てのいい娘の春は地道にコツコツと豆腐を作り続ける毎日を送っている。陽が昇る前に厨房に入り、こだわりの大豆を使った豆腐を作る父と娘。2人を取り巻く昔ながらの仲間たちとの和やかな時間。そんな日常にそれぞれの新しい出会いが訪れる。




(「映画.com」より)


www.youtube.com



主演は、藤竜也麻生久美子。ふたりが父娘を演じる。麻生久美子は、独特な雰囲気のある、むかしから好きな女優。ひさしぶりに見たが、よかった。きれいに歳を重ねているな。


藤竜也は、日活の清純派女優・芦川いづみを、独占した(お嫁さんにした)憎きヤツ(笑)。




芦川いづみ(ウキペディアより)。


まあ、それはいいとして(笑)、藤竜也麻生久美子…ふたりの父娘役、しみじみとよかった。


舞台は、尾道尾道といえば、わたしにとっては、志賀直哉の『暗夜行路』であり、小津安二郎監督『東京物語』である。


志賀直哉が坂の中腹(『暗夜行路』に登場する「三軒長屋」)から眺めた瀬戸内の景色を追体験したくて、尾道へ旅行したことがある。


志賀直哉が滞在した尾道の三軒長屋は(『暗夜行路』では、主人公・時任謙作が)、まだそのまま残されていたが、息子によると、「まもなく、あの三軒長屋なくなってしまうかもしれない」らしい。事実だとしたら、とても残念な話だ。


適齢期を過ぎた娘をお嫁にやる父の複雑な心を描いた映画としては、小津安二郎作品(『晩春』、『秋刀魚の味』)と重なる。しかし、小津作品に比べると、人情劇(+コメディ)の要素が強い。


尾道の風景では、千光寺や浄土寺が映っていた。


志賀直哉は『暗夜行路(前編)』で、千光寺の「時の鐘」を描写している。

六時になると上の寺で刻(とき)の鐘をつく。ゴーンとなると直ぐゴーンと反響が一つ、又一つ、又一つ、それが遠くから帰って来る。


東京物語』の笠智衆東山千栄子夫妻が住んでいたのは、浄土寺の隣りではないか(映画のなかで、笠智衆が庭へ出ると浄土寺の「多宝塔」がチラッと映っていたような記憶がある)。


『高野豆腐店の春』は、そんな懐かしい作品を想起させる、ほのぼの系映画だった。