かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

成瀬巳喜男監督『白い野獣』(1950年)



「白百合寮」は、戦後からだで商売をしてきた女性たちを更生させるための施設。


戦後の傷を背負った女性たちが更生を願いながらミシンを学び、社会復帰を待っているが、新しく寮へはいってきた啓子(三浦光子)は、自分のやってきたことを悪いとはおもっていない。この啓子をめぐって物語は動いていく。


理解ある寮長に、山村聡山村聡は、その後の成瀬巳喜男作品『山の音』などの出演時に比べると、若くてほっそりしている。役柄の誠実な寮長を、自然のまま演じていて、役者の素顔が生きているようにみえる。現実にこんな優しい対応で、ひと癖もふた癖もある女性たちを束ねていけるのか、という気もするが、これは、そういう映画なのだ、とおもう(笑)。


美しく知的な女医に、飯野公子。ぼくは飯野公子という女優を名前も何も知らず、はじめて見たが、清潔な笑顔が美しい女優だ。


寮長と女医は、お互い好意を持ち合っているようにも見えるが、仕事としての関係を踏み越えることはないまま終わる。ここで二人の恋愛に話が発展しては、話の焦点がぼやけてしまうので、<いい感じの関係>のままでいいのだ、とおもう。


梅毒で発狂する女性を、おばあさん役のイメージが強い北林谷栄 が熱演している。


映画は、もめごとを起こすことの多い啓子が、梅毒に感染していることがわかり、静かなクライマックスを迎える。


<啓子本人が強く病気と立ち向かっていかなければならない>


彼女を案じながら、そう願い、静かに彼女を見守る、寮長と女医の優しい姿を映しながら、映画は終わっていく。


ドラマ性は少なく、最後に安易な解決なく終わるのは、成瀬巳喜男流だが、成瀬巳喜男が、題材そのものに特別な関心をもっていたとはおもえない作品である。


しかし、ファンとして第一に、まだ見ていなかった成瀬巳喜男作品を見れたのはうれしい。