かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

成瀬巳喜男監督『杏っ子』(1958年)



久しぶりに本格的な成瀬巳喜男作品を見ました。やっぱりいいですね。堪能しました。


嫁いだ相手は、とんだダメ男で、酒癖が悪い。仕事は続かず、やめてしまうと、毎日発表のあてもない小説を書いている。


それがどこにも売れないと、酒を飲んで、グダグダ妻にからんでくる。


見ていてもはがゆくて、もういい加減見放して里帰りしたらいいだろう、とおもいますが、成瀬巳喜男はそう簡単には許してくれません。


成瀬巳喜男のダメ男描写は、徹底していて、香川京子の妻よりも、観客が先に逃げ出したくなります(笑)。


「結婚生活とは安息の場所ではない」という、あの『めし』と同じようなテーマがここでも厳しく描かれていきます。


『めし』では、夫に上原謙、妻が原節子でしたが、『杏っ子』では、夫を木村功、妻を香川京子が演じています。


より若いカップルともいえますが、夫のダメぶりは『めし』上原謙を超えていますね。


清楚で可憐な香川京子がダメ男にからまれながらも、投げ出さず、若々しく健気に、正面から向かい合って生きていこうとします。


そういう娘を案じながらも、決して二人の結婚生活に口だしをすることなく、なんとか再生することを願う父を、山村聡が重厚に演じて、この父が、娘の癒しだけでなく、映画全体の癒しにもなっていました。



これからご覧になる方もいらっしゃるとおもうので、ストーリーは書かずにおきます。


厳しい成瀬巳喜男の世界を久々堪能しました。


こちらにringoさんの感想があります。