寅さんは元気で、大原麗子はほんとうにきれいだった。大原麗子が亡くなって、思い出した映画は、ぼくの場合この作品だった。女優として彼女が出演する作品を、他にほとんど見ていないことに気づく。
1978年なら、ぼくも29歳か。出演者もみんな若くて、ちょっと感慨を覚えてしまう。
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職安から「とらや」にやってきたのはびっくりするほどの美人。団子屋にはあわないのではないか、と、「とらや」のひとたちは気をもむ。
「赤坂におおきな『とらや』ってお店があるけど、うちは何にも関係ないんですよ」とおばちゃんが念を押す。
さらに、仕事の開始時間を「明日、9時からでいいでしょうか」と早苗(大原麗子)が聞くと、、、
「いいんですよ、何時でも。気が向いたときに来てくれれば」とおばちゃんがいう。
このふたつの、おばちゃんの善意丸出しのセリフが大好きで、このシーンを見るたびに、声を出して笑ってしまう。
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博の父(志村喬)から聞かされた『今昔物語』の逸話で、人生の虚しさに心を憂える寅さんだが、美人の荒川さん(大原麗子)を見たとたん、恋に目覚めて、俗世にもどってしまう。
しかしながら、、、
旅先で、山間(やまあい)の長い長い木橋を、かばん1つで歩く寅さんが、高僧のように美しい。強い旅情に駆られてしまった。