読んだのもしばらく前で、本ももう図書館に返してしまったので、簡単な感想のメモだけ。
この名女優の抜群の文才は、すでに『わたしの渡世日記』で体験ずみ。はじめて読んだとき、おどろいてしまった。
そして、この比較的最近(本が出た当時のだけど)の身辺を描いたエッセイも、やっぱりおもしろかった。
よくあるように、女優にインタビューして、ライターや記者が文章を起こした<女優のエッセイ>などとは、まるで印象が違う。映画からはうかがうことのできない、というより、まるでイメージのちがう<高峰秀子>が浮かびあがってくる。
本を読んでいると、映画の話題が少ない。読み手がさびしくなるほど、自身の女優としての仕事の蓄積に関心が薄いようだ。
とにかく、早く引退したかった、という。
エッセイのなかには、共演者や映画監督の話題も、まれにしか出てこない。私的な交流もなかったようだ。
以前なにかのインタビューで、
「成瀬巳喜男監督から何を学びました?」と聞かれ、
「何も。成瀬さんはしゃべらないもの」
と、答えていたのが強烈だった。
冗談や皮肉でいっているようにはみえない。これが高峰秀子なのだろう。あっけらかんとしたのものだ。
高峰秀子がこよなく愛し畏敬していたのは、梅原龍三郎であり、司馬遼太郎であるという。二人については本のなかでその交遊を楽しそうに描いている。