かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

平山秀幸監督『必死剣鳥刺し』(上映中)


朝8時11分、極貧荘の近くのバス停から、赤羽駅西口行きのバスに乗る。


久々の立呑み「いこい」、午前8時50分。


いつもカウンターが満席なのに、奥にあいてる場所があったので、そこへ立って、カウンターの中のサイトウさんに、あいさつする。


この時間帯は、サイトウさんが、前線のすべてのお客を仕切り、奥にいるアッコちゃんが、料理をつくりながら、それを補助する。


30人から40人くらいの客を相手に、注文をとって、料理を出し、その場でひとつひとつお金を精算していくのだから、忙しさは半端でない。


そんなこともあって、「いこい」は、おおむね接客が乱暴だ。多少の不愉快は、当然だろう、という客扱いをする。注文しても、タイミングをあわせないと、無視される。それを知るまで何度か足を運ぶ必要がある。


この品数の多さと、破格の安さでは、「それも仕方ないだろう」と容認している客だけがここへくるような気がする。


わたしの場合、サイトウさんが、快く接してくれるので、サイトウさんがカウンターにいる時間帯をねらっていく。


午前10時には、サイトウさんが、前線から退くことも、わかっている。


ハイボールを飲みながら、ツマミを物色していたら、隣の男の様子がおかしい。妙にくしゃみを連発する。親しく知人と話している様子にみえたが、それは知人ではなく、隣の客に話しかけていただけだ、とあとでわかる。


気の端で隣が気になりながらも、まぐろの刺身(130円)、ポテトサラダ(110円)、野菜の天ぷら(110円)、やきとりのねぎま(2本で220円)をつまみに、焼酎ハイボール(180円)を3杯おかわりする。


途中、隣が段々さわがしくなって、その男が時々ぶつかってきた。周囲の客が段々帰っていく。


サイトウさんが、酔っ払いに「もう帰りなさい」と怒る。


酔っ払いは、自分の相手をするものがいなくなると、今度はわたしにも何かいいかけてきたが、「ひとりで飲みたいから」といって、話しかけるのを無視する。


サイトウさんが、「迷惑だからやめなさい!」とすぐに反応した。


ハイボールを3杯飲んだところで、食べるものもちょうど片付いたので、サイトウさんに「ごちそうさまでした」と挨拶する。


「ありがとね」とサイトウさんから、いつものように返ってきた。さらに奥のアッコちゃんからも、「ありがとうございました」と声がかえってきた。アッコちゃんの声には、変な客がいてすみません、というニュアンスが、含まれていた。


客の酔い方に厳しい「いこい」で、はじめて「トラ」を見た。この客は、次回「出入り禁止」になるのかもしれない。



すぐ近くにある立呑み「喜多屋」でもう一杯飲もうとはいったら、さっき「いこい」で酔っ払いの相手をしていた4人組が、先にきて飲んでいた。彼らもかなり酔っていて、大きな声で何か話していた。


ここでは、刺身と冷奴をつまみに焼酎ハイボールを1杯だけ飲んで、出る。静かなので、たまに寄るが、値段はほとんど同じなのに「いこい」のような活気はない。


いい気分に酔って、赤羽から埼京線で、川越へ向う。



川越駅へクルマで迎えにきた妻が、「はじまる時間がちょうどだから、『トヨエツの時代劇』を見にいこう。映画館へいくまで20分寝てて」と、いう。見ようとおもっていた映画だったが、こんなに酔っていてどうかな、とおもいつつも行く。


さらに映画館で生ビールを買って、座席へすわる。


必死剣鳥刺し』は、藤沢周平の原作なので、山田洋次監督の、一連の時代ものの最新作を見ているような気持ちにも、ちょっとなる。


話のスジも、原作が同じシリーズだから、山田監督のものと似ている。


やっぱり豊川悦司は、いい。もっと軽い役の方が、味わいがあって好きだが、時代劇の重厚な役も、みごとなものだ。こういう役は、ただ役者が目を剥いてりきんだからって、重厚になるわけではない。内面から光るような迫力がないと、ただおおげさなだけになる。


さらに感心したのは、この映画で重要な鍵を握る、豊川悦司の上役を演じる岸部一徳


岸部一徳の役は、前半は部下に特別な厚意をかけるあたたかい上役にみえるが、後半はとんでもない悪党であることが判明する。しかし、それを演じる岸部一徳は、表情をほとんど変えていない。


そのままの表情で、すばらしい善人にもみえ、状況が一変すると、憎々しい冷酷な悪党にみえてくる・・・ぼくのなかでは、三浦友和と並んで、すばらしい脇役を演じられる当代名優のひとりだ。


酔いが回って何度か眠りそうになり、妻から肘で突かれた(笑)。



映画館を出て、妻とビルの下にある「寿司屋」へ寄る。カウンターが広くあって、料金も安い。


軽く寿司を食べて、ホッピーを1杯だけ飲んだ。