かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

李相日(リ・サンイル)監督『怒り』を見る(9月18日)。



朝から雨。川越のロイヤルホストで、娘夫婦と双子の子供たち、そして妻と朝食。娘夫婦が近くに住んでいるので、双子の成長していく姿を週に1回間近に見られるのがうれしい。2歳半という、赤ちゃんと子供の境目くらいのところで、ませたことをいうかとおもえば、たわいのないことで泣き出したりするのがおもしろい。



娘夫婦たちと別れて、映画『怒り』を見るまでまだ時間があったので、「はつかり温泉」へいく。きのう、弟夫妻と飲んだアルコールを温泉で流す。湯を出て、休憩所に横になり、電子書籍で保坂正康著『昭和史のかたち』を読了。近代史の視点から、安倍政権の歪みを教えてもらう。


昭和史のかたち (岩波新書)

昭和史のかたち (岩波新書)



『怒り』は、監督が『悪人』の李相日(リ・サンイル)、原作が、好きな作家のひとり、吉田修一。これでおもしろくないわけがない、とおもいながら、豪華すぎる出演者たちに、オーラ負けしないだろうか、と少し不安も感じていた。


しかし、結論からいえば、『怒り』は、現在の日本映画の底力を感じさせる傑作で、終始作品の迫力にひっぱられた。


三つの世界が別々に描かれている。


千葉の舞台に出演するのは、渡辺謙宮崎あおい松山ケンイチ池脇千鶴など。渡辺謙が、漁港に暮らすふつうの「おやじ」を演じる。抑制的でシブい。個人的には、ハリウッド映画の渡辺謙よりずっといい。宮崎あおいは、あらためて演技の幅の広さに感心。頼りないくらい純粋すぎる少女を、リアルに演じている。


東京の舞台では、妻夫木聡綾野剛原日出子高畑充希などが出演。妻夫木と綾野が同性愛者を演じる。ちょっとめんくらってしまうほど、ツボにはまっている。妻夫木の演技の幅も広いなあ。そして、どれも半端でなく深い。


沖縄の舞台では、森山未來広瀬すず、佐久本宝(わたしははじめて見る俳優)が出演。ここでは、森山未來の迫力ある演技に目を奪われるけれど、広瀬すずも、佐久本宝も、いい。広瀬すずは、是枝裕和監督の『海街diary』を見て、その可憐さに魅了されてしまった。


この映画の広瀬すずは、残酷な事件にあう。広瀬すずの純真なイメージを裏切ってギクっとする。アイドル映画だけではなく、こういう優れた作品に、これからもぜひ出てほしい。


(この記事をアップしてからあと、広瀬すずがこの作品に出たくて、自らオーディションを受けて出演が決まった、ということを知った。こんな話をきくと、広瀬すずのこれからの活躍がますますたのしみになる)


構成は、千葉、東京、沖縄の三編が入り混じる。めまぐるしく変わるので、最初わかりにくいが、じきに慣れる。そして、見終わってみると、これ以上ない巧みな構成だ、とおもう。終盤にはいって、加速度的に、この構成の効果が出てくる。監督、脚本の力だろう。


この映画、犯人当てのおもしろさもあるが、それが主眼ではない。自分の愛するひとを、自分が信頼しているひとを、そのひとに何か疑惑が生じたとき、わたしたちはどこまでそのひとを信じることができるか、そういうことをひとりひとりの観客に突きつけてくる作品。


『怒り』予告篇↓
https://www.youtube.com/watch?v=HhH9MUwv7AY



<この映画を詳細に深く紹介しているブログがある>
『一日の王』↓
http://blog.goo.ne.jp/taku6100/e/b16f4a5b56a2b3abc97af59f41abedd3



映画館を出ると、妻の携帯に息子から電話がはいっていた。出ると、いま川越の家へ来ているという。ではと、外で食事せず、まっすぐ川越の家へ帰る。


息子は、午後8時に川越の病院へ、介護士の妻を迎えにいくのだ、という。


息子が、新聞で、志賀直哉の短編「山鳩」について書かれた記事、武者小路実篤が障害者に寄せた原稿が発見された記事、横尾忠則がニューヨークでジョン・レノンと会ったときの記事など、こちらが感心のあることをちゃんとおさえて持参してくれたので、うれしかった。ショーチューを飲みながらさっそく読む。