かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

森田芳光監督『武士の家計簿』(上映中)




12月4日、紅葉見物にいくか、『武士の家計簿』の初日を見にいくか、迷ったあげく、両方見ることにした。


池袋で10時30分から『武士の家計簿』を見る。


下級武士の生活を描いたものとしては、山田洋次監督『たそがれ清兵衛』や是枝裕和監督『花よりもなほ』がある。


武士なのに剣術がからっきしダメ、ということでは『武士の家計簿』は、いざとなると剣の達人だった『たそがれ清兵衛』よりも、『花よりもなほ』の武士に近い。


主人公が剣術に弱い、なんて、むかしの時代劇ではあり得なかったとおもうけれど、その先駆的な作品としては、是枝裕和監督が『花よりもなほ』で成功させている。落語の「長屋の仇討ち」をベースにしたコメディがおもしろかった。


武士の家計簿』の原作は、小説やオリジナル脚本ではなく、磯田道史の新書版『武士の家計簿 「加賀藩御算用者」の幕末維新』である、というのが変っている。こういう古い文献をもとにして、優れた娯楽作品に作り上げてしまうところが、森田芳光監督の非凡な才能なのだろう。


主人公猪山直之は、剣ではなく、そろばんを武士の命として、借金まみれの猪山家を建て直し、加賀藩の不正を発見する。しかし、不正を見つけても、藩はそれをすぐに受けいれるほど、下級武士を重んじてはいない。


主演の堺雅人がいい。算用者として、帳簿の不整合が我慢できず、ジッと考えこむ堺雅人の顔は、若き日の緒形拳に似ている。


動的な見せ場がほとんどないから、簡単な役柄ではなかったろう。<そろばん侍>とバカにされても、自分の思うところを実践していく。


後半、少し監督は、涙のサービスをしすぎているような気がしたが、それを引いても、十分おもしろかった。



紅葉は、新宿御苑で楽しんだ。