かぶとむし日記

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宮沢章夫作『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集』

ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集

ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集


これは、ボブ・ディランの実際にあるベスト・アルバムのタイトルだけど、それをそのまま使うことって<アリ>なんだろうか。


ともかく、タイトルを見て、「えっ、なんだろう?」とおもい、まさにそのタイトルが気になって読んだ。だから、<アリ>だとすれば、「おっ」と目をひく、効果的なタイトルにはちがいないけれど。



新宿西口の中古レコード屋さんが舞台だが、その場所の周辺は精密に描かれている。新宿西口で中古レコードや海賊盤を探した記憶のあるひとには、それだけでなんだか懐かしくなってしまう小説だ。


歌舞伎町の放火事件が起きた日、酒を飲むと記憶を失ってしまう中古レコード店の店主は、その放火を自分がやったのかどうか、はっきり思い出せない。むかし、放火のまねごとをして、事前に通行人に殴られた経験のあるその男は、自分はまったく関係ない、といいきるだけの自信がない。


小説は、不明瞭のまま進む。そして、この小説は、その顛末と結果を描いた作品ではない。



2001年の新宿の空気と、そこで好きな音楽にかかわりながら生きる青年たちの11日間が描かれるが、はっきりした事実は最後までなにも示されない。


わたしは必ずしも事件は解決されなければならない、とはおもはないし、むしろあとに問題を残したまま終わる作品は好きだけど、、、


思わせぶりに、「あなたはまだ本当のことを知らないのでしょう」といって去っていった彼女の言葉の意味まで、なにも説明されないのは、どうなのだろうか、とおもった。