かぶとむし日記

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吉田修一作『横道世之介』(文春文庫)


横道世之介 (文春文庫)

横道世之介 (文春文庫)


長崎から東京の大学へ出てきた大学生・横道世之介の、1年ほどの東京の生活が描かれていく。大学とバイトと交友。そういうどこにでもあるような大学生活。


それなのに優れた作家が描くと、たのしい読み物になる。


夏目漱石の『三四郎』を連想しないでもない。明治と平成の大学生だから、もちろんずいぶん違うことが多いが、どちらも主人公がどこかのんびりしていて、読みながらあったかい気持ちになれる。


吉田修一という作家は、小説の舞台が具体的で、その風景を丁寧に描く。知っている場所が目に浮かぶ。この作家の特徴のひとつといっていい。


ユーモラスでいて、どこかホロッとさせる青春小説。肩に力がはいっていては書けないような脱力感のころあいが快い。


作中の登場人物たちは、横道世之介という若者と出会ってよかった、と、のちになって回想している。そういう気持ちは、読者のわたしのなかにも起こってきて、横道世之介ともっと時間を共有したくて、読み終えてしまうのが惜しくなってきた。