
- 作者: 吉田修一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/11/09
- メディア: 文庫
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長崎から東京の大学へ出てきた大学生・横道世之介の、1年ほどの東京の生活が描かれていく。大学とバイトと交友。そういうどこにでもあるような大学生活。
それなのに優れた作家が描くと、たのしい読み物になる。
夏目漱石の『三四郎』を連想しないでもない。明治と平成の大学生だから、もちろんずいぶん違うことが多いが、どちらも主人公がどこかのんびりしていて、読みながらあったかい気持ちになれる。
吉田修一という作家は、小説の舞台が具体的で、その風景を丁寧に描く。知っている場所が目に浮かぶ。この作家の特徴のひとつといっていい。
ユーモラスでいて、どこかホロッとさせる青春小説。肩に力がはいっていては書けないような脱力感のころあいが快い。
作中の登場人物たちは、横道世之介という若者と出会ってよかった、と、のちになって回想している。そういう気持ちは、読者のわたしのなかにも起こってきて、横道世之介ともっと時間を共有したくて、読み終えてしまうのが惜しくなってきた。