かぶとむし日記

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水川隆夫著『夏目漱石と戦争』(平凡社新書)


夏目漱石と戦争 (平凡社新書)

夏目漱石と戦争 (平凡社新書)


小説や講演、書簡、日記などから、夏目漱石が戦争について言及した文章の切れ端を集め、漱石の戦争観を浮かび上がらせようとした労作。


漱石幸徳秋水らが言論弾圧から処刑された「大逆事件」を見ている。そういう時代で、発言は慎重であり、表現は必ずしもわかりやすくない。


また、明治に生きて*1、人並みの愛国心も持ち合わせていた。日露戦争がはじまれば、日本に勝ってほしい、という素朴な感情もあった。


しかし、国家主義軍国主義を憎み、あくまで個人の自由が保障されて、そのうえで国家があるのでなければならない、という考えに帰着。


国ぐるみの戦争支持の熱気のなかで、日露戦争にも、第一次世界大戦にも、漱石は距離を置き、懐疑的になっていく。


時の権力が、美辞麗句を並べて戦争を美化しても、内実は国家の欲望や財界の野望がうごめいていることを、漱石は見抜いていた。


いわく「戦争は悲惨です」


本を読み進めているうちに、パズルの断片がひとつひとつ正確にはめこまれていくように、漱石の言葉の真意が明らかになっていくのは、気持ちいい。

*1:夏目漱石は、慶応3年(1867年)生まれ。