
- 作者: 水川隆夫
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2010/06/16
- メディア: 新書
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小説や講演、書簡、日記などから、夏目漱石が戦争について言及した文章の切れ端を集め、漱石の戦争観を浮かび上がらせようとした労作。
漱石は幸徳秋水らが言論弾圧から処刑された「大逆事件」を見ている。そういう時代で、発言は慎重であり、表現は必ずしもわかりやすくない。
また、明治に生きて*1、人並みの愛国心も持ち合わせていた。日露戦争がはじまれば、日本に勝ってほしい、という素朴な感情もあった。
しかし、国家主義や軍国主義を憎み、あくまで個人の自由が保障されて、そのうえで国家があるのでなければならない、という考えに帰着。
国ぐるみの戦争支持の熱気のなかで、日露戦争にも、第一次世界大戦にも、漱石は距離を置き、懐疑的になっていく。
時の権力が、美辞麗句を並べて戦争を美化しても、内実は国家の欲望や財界の野望がうごめいていることを、漱石は見抜いていた。
いわく「戦争は悲惨です」
本を読み進めているうちに、パズルの断片がひとつひとつ正確にはめこまれていくように、漱石の言葉の真意が明らかになっていくのは、気持ちいい。