かぶとむし日記

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降旗康男監督『少年H』(公開中)


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ねらったわけではないけれど、時間ができたので、8月15日の終戦記念日に、降旗康男監督『少年H』を見る。



多くの戦争は、たいてい最初は静かにはじまる。生活への影響はまだ少なく、どこか遠いところで起こっているような気がする。みんな勇ましい言動で、敵国を非難する。戦争は国民から支持される。


気がついてみると、言論統制が厳しくなっていく。軍事色が強まって、軍事教練では殴る叩くが日常になる。少年の父が新しく就職した消防署でも、訓練は軍隊式だ。


戦争以前に、こんな日常ではたまらない、という気がする。暴力が正々堂々とまかりとおるのが軍隊式だ。


はじめは遠くから忍び寄る戦火は、急に接近すると、もう引き返すことができない。空襲という無差別攻撃が空から襲ってくる。


竹槍の突撃、バケツリレーの消火など、むりやり教え込まれた軍事練習はなにも役に立たない。敵がいるのははるか頭上で、一方的に銃弾が降り注いでくる。



こうした時代状況が、淡々と、しかし、とてもわかりやすく描かれている。


なんといやな時代だろう、とおもう。徴兵にとられた「おとこ姉ちゃん」ほど軍人にそぐわないものはない。きっと軍隊にいったら虐められるだろう、と危惧していると、それを察してか、早々に自殺してしまう。マイノリティには、悲しい時代・・・。


少年の一家、父、母、妹、そしてHの目からみた戦争とその時代。悲しくてやりきれない日本が描かれている。


こんなことは過去のことで、もうこの現代には起こらない、と楽観できたらいいのだけれど・・・。


もし、憲法解釈で、集団的自衛権の行使が可能になり、「新憲法」で、国民主権基本的人権も戦争の放棄も骨抜きにされたら、悲惨な歴史が繰り返されるかもしれない。


とても遠い過去のドラマとして見られなかった。



ドラマのテンポもよかった。時代のセットに見惚れた。主演の少年はうまいし、父役の水谷豊の、悲しみも苦しみもすべてを心に秘めた静かな表情が心に残る。