- 作者: 梯久美子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/10/31
- メディア: 単行本
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梯久美子(かけはし・くみこ)著『狂うひとー「死の棘」の妻・島尾ミホ』を、読了。
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島尾ミホは、島尾敏雄夫人。『死の棘』のヒロインでよく知られている。
『死の棘』のヒロイン・ミホは、夫の浮気に心を狂わせ、執拗に夫の罪を問い詰め、やがて精神を病み、入院してしまう。これは島尾夫妻に起こった事実を、ほとんどそのまま書いたもの、といわれている。
妻に殴られ、味噌汁をかけられ、執拗に「あいつ」(浮気相手の女性をミホは、そう呼ぶ)のことで連日攻撃されると、夫も少しずつ正気を失って、走ってくる電車に飛び込もうとしたり、家の柱で首を吊ろうとしたりする。
そんな地獄のような日々(みかたによっては、喜劇でもあるが)を描いたのが、島尾敏雄の『死の棘』。1990年、小栗康平監督で映画化もされている(タイトルは同名。主演、岸部一徳、松坂慶子)。映画もよかった。
『死の棘』は、夫婦の地獄のような生活を描きながら、究極の夫婦愛を描いたものとしても読まれ、高い評価を得ているようだ。しかし、こんな夫婦生活などたまったものではない、というのがわたしの正直な感想でもある(笑)。
はたから見て、『死の棘』のミホの激情は異常にもおもえる。作品は、どこまでが事実で、どこからが創作なのか。
島尾ミホは、自身もある時期から小説を書きはじめる。作品の質は、作家の妻がエッセイを書きました、という余技的なものではないようだ。梯久美子氏が紹介する引用部分を読んだだけでも、資質の非凡さが伝わってくる。ミホの小説を近々ちゃんと読んでみたい。
著者の梯久美子さんは、実際に生前のミホに会って取材し、ミホの没後、残された遺品のなかで発見した未完の作品、さらには、未発表の島尾敏雄の日記(ミホの検閲前のもの)などを深く読みつくし、さまざま角度から、ミホという情熱的な女性の姿を浮き彫りにし、『死の棘』の真実にも迫っていく。ノンフィクション作家の気迫に圧倒された。
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2017年7月29日から、島尾ミホと敏雄の戦時下のなかの激しい恋愛を描いた映画『海辺の生と死』が公開される。
監督は、越川道夫、原作は島尾ミホの『海辺の生と死』。主演は、満島ひかり(わたしの好きな女優、でうれしい)と永山絢斗。これも、いまからたのしみ。
『海辺の生と死』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=wi23Xq2SZBg