かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

川本三郎著『荷風と東京下』を読む。



永井荷風の日記『断腸亭日乗』は、拡張高い文語体で綴られているので、これを逐一読んでいくのは、正直つらい。むかし、読み始めたことがあったけれど、1冊の途中で頓挫してしまった。


荷風は、1日も休まずその生涯を『断腸亭日乗』のなかに記録していった。興味あるけれど、読破するのには文語体の連続はくじけそうで・・・とあきらめていたところに、川本三郎氏の『荷風と東京』があることを知り、さっそく読み始めたものの活字の細かさに疲れて、「上」を読んだまま、長いブランクができてしまった。


でも、意を決して「下」に挑戦、読了した。


荷風と東京』は、川本三郎氏が、敬愛する永井荷風の『断腸亭日乗』を中心に、すべての作品・資料を読みこみ、真正面から取り組んだ力作。読み終えるのがもったないほど、読書の醍醐味を堪能させてもらった。


難解な文語体の『断腸亭日乗』も、川本三郎氏の文の中にはいると、すこしもむずかしくない。適切な川本氏の文が荷風の心象風景や思想をとらえていく。説明的な文ではないのに、自然に深い解説になっているのがすごい。


川本三郎氏は、散歩の達人でもあるけれど、その川本さんの散歩の先達は、永井荷風永井荷風の歩いた東京を、川本さんは、なんどとなく歩いた。そのせいか、『荷風と東京』は、荷風と川本さんのふたりに案内されながら「東京散歩」しているような贅沢な気分になれる。


永井荷風が見た明治・大正・昭和と、川本三郎氏が歩いた昭和30年代以降の昭和が、折り重なったり、離れたりするのも味わい深い。



Youtubeに、永井荷風の肉声があった!
https://www.youtube.com/watch?v=S8hSXY2naYk