かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

ジム・ジャームッシュ監督『パターソン』を見る(9月16日)。


9月16日、土曜日。「ヒューマントラスト渋谷」へ、ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』を見にいく。『パターソン』は、ぜひとも見たかった、というより、このところ見たい映画をどんどん消化しているので、「ぜひとも見たい映画」が品切れ状態。なので、とりあえず見ておこうか、とそんな気分でいってみる。


ところが、この映画に魅せられてしまった。事件らしい事件はなにも起こらないのに、目が離せない。次はこうなるのかな、って漠然予期していると、そうはならない(笑)。通常の映画の常識が壊されていく。ジム・ジャームシュ監督に「映画に毒されちゃいけないよ」と、やんわり注意されているような気分。


主人公のパターソンは、バスの運転手で無名詩人。奥さんのローラは、専業主婦らしいが、常に創意工夫をもって、壁の色を塗りかえ、カーテンや衣類を自分好みにデザインしている。だから、子供のいない専業主婦なのに忙しいようだ。この夫婦には、もうひとり「マーヴィン」という名の、賢いのかそうでないのか微妙な、でもとっても可愛いブルドック犬がいる。映画は、この三人家族の一週間のものがたり。



うらやましいほど仲のいいふたり。



味わいに満ちた三人目の家族。



日本人の詩人として、永瀬正敏も登場する。


奥さんのローラは、夫の詩の才能を信じているので、夫のパターソンがノートに詩を書き溜めるだけで、広く世に問おうとしないのが、残念。夫は、自己アピールが苦手だけれど、奥さんのほうは、前向きの実行派。自分で焼いた自己流ケーキを、市場に売りにいったりする。


反対の性格だから、このふたり相性がいいのかもしれない。ほんとうに、ふたりは仲がいいし、多少の問題があっても、お互いをおもいやっているので、諍いにはならない。


ユーモラスな脇役もたのしい。バス会社の仲間(朝、バスの具合や運転手の体調を確認にくるのかな?)は、悲観的なひとで、パターソンから朝のあいさつで「調子はどうだい?」と聞かれると、「最悪だ」と答える。1週間のものがたりで、はじめは、そんなあいさつの会話にさほど注意を払わないが、それが毎朝繰り返されていくと、「悲観男」の彼が登場しただけで、クスクス笑ってしまう。反復のおもしろさ。


実際、わたしを含めて、左側の女性も、右側の男性も、なんどもクスクス笑いをし、ときどき声を出して笑ってしまった。こんなさりげなく魅力的な脇役が何人か登場してくる。人間のやさしさ、あたたかさを感じる作品だけど、これみよがしの「ヒューマニズム」からはいちばん遠い。そういう甘ったるさはまるでない。奇跡のようなすばらしい作品。


『パターソン』予告編⬇
https://www.youtube.com/watch?v=w6zjJp33zwg



映画館を出るといまにも降り出しそうな重い空。渋谷で食事をするのはやめて、アパートのある駅の、いきつけのとんかつ屋さんで、お昼をすます。