かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

映画『焼肉ドラゴン』を見る。

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6月29日、金曜日。「イオンシネマ板橋」で、鄭義信(チョン・ウィシン)監督の『焼肉ドラゴン』を見る。これが、予想以上におもしろかった。評判の演劇の映画化だった、ということも、映画の解説を読んで知った。



『焼肉ドラゴン』予告編




1970年代、大阪の、在日コリアンの人たちが住む貧乏な長屋。映画のほとんどは、この長屋のなかで繰り広げるてんこもりの騒動。映画がはじまるやいなや、ワイワイガヤガヤ、やかましい。彼らは、貧しいが元気そのもので、長屋のなかにある焼肉屋「焼肉ドラゴン」へ集まっては、にぎやかにお酒を飲んでいる。


在日コリアンの3姉妹を演じるのは、真木よう子井上真央桜庭ななみ。3姉妹がこのうえなく貧しい長屋のなかで、生き生きと、ややガサツに登場してくるのがたのしい。井上真央のちょっと濃厚な(で、ないとしても、かなり長い)キス・シーンは、ドキドキするし、桜庭ななみにも、キス・シーンがある(こちらは、角度的に唇の接触を隠しているので、ひとまず許す)。そういうドキドキのシーンも見せながら、しっかりストーリーの核心は動いていく。


この作品、なんども笑わせてくれるたのしい映画なのだが、その奥には在日コリアンの悲しみ、苦しみが根底にある。それを笑いに転化して深刻にみせてないのが、手腕なのだろう。でも、悲痛なメッセージはちゃんと観客に届いている、とおもう。


「焼肉ドラゴン」へ集まるひとクセもふたクセもあるひとたちは、それぞれが個性的に描かれている。彼らは、脇役以上の活躍ぶりで、作品に笑いの花を添える。


しかし、なんといっても3姉妹の両親を演じたキム・サンホ(父)とイ・ジョンウン(母)の存在感がすごい。事実上の主演は、このふたりなのだろう。


キム・サンホ演じる父は、日本の戦争に強制的に駆り出され、片腕を失っている。しかし、希望を失っていない。異国の日本で、黒澤明の『どですかでん』も顔負けの貧乏長屋のなかで、家族を養っていこうと決意し、しっかり足を地面について暮らしている。その家族を長屋から追い出そうとするのが、当時の日本政府だか、大阪府だか、とにかく役人と政治家たちの政策なのだ。


笑いあり、感動ありで、たっぷり映画の醍醐味を味あわせてくれる。



帰り、線路をわたって、とんかつ「まるとし」で、ホッピーとカツ・カレーでお昼。