かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

大森立嗣監督『日日是好日』を見る。

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10月13日、土曜日。板橋の姉の家に泊まった妻と合流、「イオンシネマ板橋」へ、大森立嗣監督、黒木華主演の『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』を見にいく。




『日日是好日』予告



公開が決まったときからたのしみにしていた作品。黒木華樹木希林多部未華子、みんな好きな女優ばかり。


公開を待つあいだに、樹木希林の訃報におどろいた。「もうすぐ死ぬ、死ぬ」というやつに限ってなかなか死なない、っていうことを聞いたことがあるけれど、わたしは次々に映画に出演する樹木希林の名演を見ていて、このコトバの気分になっていた。でも、やっぱり癌は全身に転移して、樹木希林のからだを蝕んでいたのだ。



のり子(黒木華)は、生真面目で不器用な大学生(20歳)。母から武田のお茶のお師匠さんは、ふつうに挨拶をしても、姿勢がしゃっきとしている、タダモノではない、とか、そんな話をきく。


のり子は自分では決断がつかなかったが、ちょうど遊びにきていた従姉妹でおない年のみち子(多部未華子)の、「のりちゃん、お茶習おうか」の即断で、「武田のおばさん」(樹木希林)の茶道教室に通うことになる。


決め事がいっぱいのお茶の作法。いちから注意されて、失敗ばかり。そばでいるみち子はそんなのり子を見て、クスクス笑っている。不器用なのり子は、茶道へ通うのをときどきやめたくなったりする。


春、夏、秋、冬が、なんどか茶室から見える美しい庭をとおりすぎていく。


のり子をお茶の教室へ誘ったみち子は、就職してお茶をやめ、その後お見合い結婚して(潔く自分の人生を決断していくみち子に、のり子は、憧れがある)、幸せをつかむ。


のり子は、ひどい失恋を経験し、また新しい恋をして、なんどか迷ったがお茶をやめる決断もつかぬまま武田先生のお茶の教室に通いつづける。新しい後輩が通ってきてやめていく。だんだんにのり子は、教室のなかでベテランのなかまになっていく。それでも、不器用なのり子は、ときどき武田先生から注意を受けてくさったりするが、やめる決断もつかない。


のり子は、44歳になっていた。



のり子を演じた黒木華のめだたないうまさも、だんだんにめだちはじめた(笑)。


地味なキャラクターだな、っておもっていたけど、ちょっと代わりがみつからないようなしっとりとした落ち着きと、どことなく三枚目的なおかしさもまじって、ほかの女優にない魅力が作品ごとに増していく。そういえば、先日見た木村大作監督、岡田准一主演の『散り椿』でも、恋心をうちに秘めた女性を切なく演じていて、見惚れてしまった。出演作も、次々ひかえているようで、たのしみだ。


多部未華子は、目力が強くて、頬がぷっくらふくらんでいて、十代の幼な顔のころから好きだった。今回の映画では、優柔不断なのり子と対照的な、なにごとも決断の早い女の子を演じている。顔や姿はあたりまえだけれど、すっかりおとなのきれいな女性に成長している。


樹木希林は、是枝裕和監督の『万引き家族』では、入れ歯をはずして、貧しい家族のあやしげな老婆を演じていたが、この『日日是好日』では、おっとりとしたなかにもキリッとした気品のあるお茶のお師匠さんを演じている。これが『万引き家族』と同じ俳優か、っておもう。じつに、なんとも風格があって、タダモノではない。


ほとんど茶室の畳にすわって、動く演技がすくないから、その佇まいの品格が観客をなっとくさせなければならない役どころ。静かな動き、弟子を的確に注意するタイミングなど、あんまり完璧で、このひとずっと茶道をじっさいに教えてたんじゃないか、ってわたしのような茶道をなんにも知らないものは、おそれいってしまう。


美しい庭に季節がやってきて、それが移ろっていく。のり子には、いくつかの人生の転機がやってくるけれど、簡単にのり子のナレーションで語られ、失恋や恋愛の相手は、顔すら映らない。


あくまで、のり子の20歳から44歳の人生の歩みは、武田先生の茶室だけで流れていく。


こんな地味な映画で、よく退屈しないな、っておもうほど静かな作品だけれど、じっくりした余韻をたのしみながら映画館を出た。