かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

樹木希林の本『一切なりゆき』と映画『あなたはまだ帰ってこない』(3月3日)。



3月3日、月曜日。雨頻り。


渋谷Bunkamuraの「ル・シネマ」へ、フランス・ベルギー・スイス合作映画『あなたはまだ帰ってこない』を見にいく。


早く着いたので、近くの「スターバックス」へ寄る。コーヒーを飲みながら、40分ほどnonchiさんがブログで紹介していた『一切なりゆき』を電子書籍で読む。樹木希林の言葉を抜粋した本。


このひとは、俳優としても群をぬいているけど、人間としても達人の領域を生きてきたひとなんだなあ、と感心しながら読了。


こういうひとですぐ連想するのは、瀬戸内寂聴さん。どちらも、「おのれの欲するままに従いて矩(のり)を超えず」というような孔子さまの言葉を体現してこられたような達人たち。


電子書籍の「本の情報」に、樹木希林さんのコトバが列挙されている。

  • モノを持たない。買わないという生活は、いいですよ
  • 人の人生に、人の命にどれだけ自分が多く寄り添えるか
  • 欲や執着があると、それが弱みになって、人がつけこみやすくなる
  • 子供は飾りの材料にしないほうがいい
  • アンチエイジングというのもどうかと思います
  • 人間でも一回、ダメになった人が好き
  • もう人生、上等じゃないって、いつも思っている
  • 女は強くていいんです
  • つつましくて色っぽいというのが女の最高の色気
  • 最期は娘に上出来! と言ってもらいたい


ここを読んだだけでも、1冊読んだ心地がする(笑)。


次は、わたしの好きな是枝裕和監督の作品について。


まずは、『歩いても 歩いても』。

私なんかごく普通に歩いている一般的な顔だから、ああいう役をするのは自然なんだけど、あなた(阿部寛)のように、そこにすっといたらみんながみんな「あら素敵ね」と思う人が演じて、リアリティが出るんだろうかと考えたわけですよ。そしたら私の大好きな台詞(せりふ)が出てくるのね。あなたが鴨居(かもい)に頭をぶつけると、姉のちなみが「ほんとうに無意味に大きいんだから」って言うわけ(笑)。ああいうことを言わせる是枝監督のセンスみたいなものはとても面白いなと思いました。


『歩いても 歩いても』は、ごくごくふつうの日常を描いた作品。当時亡くなった是枝監督のおかあさんを、母役の樹木希林さんに投影している、という。


で、どちらかというと背も大きく、顔も濃い阿部寛が、日常ドラマの主人公にはそぐわないのではないか、というのが当然の疑問で、たしかに、これまで阿部寛はこういう日常的なドラマに出たことがない(しかし、この映画を契機に、阿部寛の役柄は一気に広がっていく)。それに、そもそも樹木希林の息子にしては背が高すぎるのではないか。


その「心配」を、是枝監督は、YOUさんの「ほんとに無意味に大きいんだから」の台詞で、飛び越えてしまう。それを樹木希林さんは、指摘している。


もうひとつ、『万引き家族』についての発言。樹木希林さんは、入れ歯をはずして役にのぞんだ

(略)、ビックリするといけないから、是枝さんには一応、「こういう顔で出ます」と事前に見せましたが、後の祭りね(笑)。わたしは気に入ってますけど。


(監督は)機微だとか人の心の裏側にあるものを掘り起こしてくる作家ですからね。この映画のキャッチコピーは「盗んだのは、絆でした」。血が繋がろうと、繋がっていなかろうと、人間がひとりではなく、誰かといるってことはもうそれだけでドラマが起きるわけで、それが家族となると、もっともっと複雑になってくる。絆とは壊れていくものであって、人間が絶対的に変わらないものを持ち続けるなんてことは、ないと思う。その面白さ、ダメさも含めて人間を肯定する是枝さんの作品はチャーミングよね。ダメさを愛おしむところがある。


是枝監督は、樹木希林さんに繰り返し出演を依頼していることについて、希林さんが出演されていると、いいかげんなものをつくれない、って気が引き締まるから(言葉そのままではないです)、というようなことをいっている。



次いで、Bunkamuraの「ル・シネマ」で、エマニュエル・フィンケル監督の『あなたはまだ帰ってこない』を見る。



映画『あなたはまだ帰ってこない』日本版予告編


前半眠くて眠くてほとんどスジが頭にはいってこない。後半は少し覚醒したが、女性の心情描写がずっと続いていて、さっぱり状況がわからない(笑)。


ヨーロッパ映画では、ときどきこういう不幸な映画との出会いがある。



早々に、次は居酒屋をどこにするか、ってことに頭が切り換わっていく(笑)。