このレコード・ジャケットからして「らしく」ない(笑)。
わたしは、それまでボブ・ディランは、日本編集版の2枚組みアルバムで聴いていた。1枚目がアコスティック編で、2枚目はエレキ編というふうにわかりやすく構成されていて、英語だけでなく当時としてはめずらしく訳詞も出ていた。わたしは、このアルバムを聴きまくって、ボブ・ディランのファンになった。
そして、ニュー・アルバムを、初めてリアル・タイムで買ったのは、1969年に発売された『ナッシュビル・スカイライン』。それが、今年で50周年になるのだと知り、年月の経つことにちょっと感慨をおぼえる。あれから、50年か。
このアルバムは、フォーク・ファンを裏切って(と一部のファンは騒いだ!)、ロック・サウンドに変更したといわれるボブ・ディランがこんどはカントリーに転身したというアルバム。全編、軽快なカントリー・ナンバーで構成されている。
CDになってからわかったことだけど、全編の収録時間が27分。当時としても、短い。でも、LP時代にはそういうところに思いはいかなかった。ただただ音楽の変化におどろいていた。
このアルバムでいちばん問題になったのは、ディランの声。なんと「美声」なのだ(笑)。
あのしわがれ声はどこへいったのか?
インタビューで本人は「タバコをやめたら声が変わった」と答えているけれど、いつものジョークだろう。
Side 1[編集]
- 北国の少女 - Girl from the North Country – 3:41
- ナッシュヴィル・スカイライン・ラグ - Nashville Skyline Rag – 3:12
- トゥ・ビー・アローン・ウィズ・ユー - To Be Alone with You – 2:05
- アイ・スリュー・イット・オール・アウェイ - I Threw It All Away – 2:23
- ペキー・デイ - Peggy Day – 1:59
Side 2[編集]
- レイ・レディ・レイ - Lay Lady Lay – 3:20
- ワン・モア・ナイト - One More Night – 2:25
- 嘘だと言っておくれ - Tell Me That It Isn't True – 2:45
- カントリー・パイ - Country Pie – 1:35
- 今宵はきみと - Tonight I'll Be Staying Here With You – 3:23
1曲目の「北国の少女」は、セルフ・カバーで、カントリーの大御所・ジョニー・キャッシュとデュエットしている。大物同士だからか、きちんとハモってないのがたのしい。歌詞も途中バラバラになったりして(笑)。
キャシュの声は渋く、ディランの声は甘い。
難解な歌詞はなく、素直な愛の歌ばかり。最後の「今宵はきみと」では、電車のチケットを窓からすてて、今宵はきみとすごすよ、っておお甘な男の歌(笑)。
当時は、放浪の詩人のイメージもあったボブ・ディラン。「商業主義に身を売った」と非難するものもあった。
しかし、わたしはこのアルバムのディランの「美声」を愛聴した。しわがれ声の男が、どうしてこういう声で歌えるのか、ふしぎでならなかった(いまも)。
★
音声だけですが、ボブ・ディランの「美声」を2曲アップしておきます。
Bob Dylan - Lay, Lady, Lay (Audio)
「Lay Lady Lay 」
ねよう、ねえ、ねよう、ピカピカのベッドにひっくりかえって
いてよ、ねえ、いてよ、夜はまだながい
朝の光できみを見てみたいよ
夜のなかできみにとどいてみたいよ
いてよ、ねえ、いてよ、夜はまだながい
次の曲は、とくにわたしが好きだった1曲。1978年の初来日のコンサートで、ボブ・ディランはこの曲を歌ってくれた。
Bob Dylan - I Threw It All Away (Audio)
「I Threw It All Away」
かつて山を手のうえにもっていた
そして川が毎日ながれていた
わたしは狂っていたにちがいない
自分のもっているものに気がつかなかった
ぽいとすててしまうまでは
訳詞は、どちらも『ボブ・ディラン 全詞302篇』からの引用です。
★
わたしは、この「美声」に惹かれ、ますますボブ・ディランという得体のわからないミュージシャンにのめりこんでいった。
それから50年。いまだにボブ・ディランを追い続けている。