かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

公衆の前で読み上げられた金子文子のラブレター。

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6月24日、月曜日。雨。


読みかけの本が溜まるばっかりなので、朝、喫茶店に寄って、コーヒーを飲みながら、読書タイム。


時間をかけ過ぎた瀬戸内寂聴著『余白の春』をやっと読了。



金子文子は、朝鮮人・朴烈(ぱくよる)とともに、関東大震災の直後に、「大逆罪」の疑いありで検挙される。まだ実際の犯罪は起こしていない。十分な証拠もない。


いまなら「共謀罪」だろうか?


しかし、金子文子は、皇太子殺害の計画を自ら積極的に自白し、いっしょに検挙された朴烈とともに死刑にされることを要望する。


彼女は、社会の正義も、法律も、主義らしい主義も、何も信じなかった。恋人・朴烈だけを信じた。


文子は、公判で手記を朗読するが、無実や減刑を求めるものではなく、朴烈への熱烈なラブ・レターだった。

「私は朴(ぱく)を知っている。朴を愛している。彼におけるすべての過失とすべての欠点を越えて、私は朴を愛する。私は今、朴が私の上に及ぼした過誤のすべてを無条件に認める。そして朴の仲間に対しては言おう。この事件が莫迦(ばか)げて見えるのなら、どうか二人を嘲(わら)ってくれ。それは二人の事なのだ。そしてお役人に対しては言おう。どうか二人を一緒にギロチンに抛りあげてくれ。朴と共に死ぬるなら私は満足しよう。そして朴には言おう。よしんばお役人の宣言が二人を引き分けても、私は決してあなたを一人死なせては置かないつもりです」


瀬戸内寂聴著『余白の春』P373


若き日、激烈な愛のなかで身を苛んだ瀬戸内寂聴(当時は、瀬戸内晴美)は、次のように書いている。

大審院の法廷を利用して、このように堂々とした恋文を、裁判官たちを前に置いて、恋人の面前で読みあげた女は、世界の中に探しても金子文子ひとりなのではないだろうか。


(同書、P374)


『余白の春』をやっと読了したので、次は金子文子の残した手記『何が私をこうさせたか』を読んでみたい。