正直にいえば、『凪待ち』も『半世界』も映画館で見なかったのは、やっぱり元アイドルの主演映画だから、という偏見があったからだとおもう。
『凪待ち』は、関西のインターネット番組『コードレスでいこうか』で、八幡愛さんが力をこめて推薦していた。
『半世界』は、keisukeさんの「薄暮シネマ」の映画評を読んで、見てみようとおもった。
https://keisuke42001.hatenablog.com/entry/2020/05/05/160836
結論からいえば、2本ともわたしの偏見を吹き飛ばすような力のこもった作品で、『凪待ち』の香取慎吾も、『半世界』の稲垣吾郎も、すばらしかった。
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『凪待ち』(2019年公開)は、白石和彌監督。暴力シーンが多いイメージがあって、どちらかというと敬遠してしまう監督だった。『凪待ち』も、やっぱり暴力シーンがある。でも、いちど映画の世界にはいりこんでしまうとそれほど気にならなくなった。
新しい家族に恵まれながら、そして彼を助けてくれる何人かのひとたちの援助を受けながら、競輪と手を切ることができず身を持ち崩していくダメ男の話。
それぞれよかったが、わたしは女優のファンなので(笑)、亜弓の娘で、ダメ男・郁男を「父」のように慕う女子高生・美波を演じた恒松祐里がいちばん印象に残った。
同居しながらも、本当の父でない郁男とは、距離を保っていた美波。その彼女が激しく泣きながら郁男を怒るシーンでは、こちらも感情をゆさぶれた。
亜弓の娘・美波を演じた恒松祐里さん。
郁夫の恋人・亜弓を殺したのは誰か?
そういうミステリー的なおもしろさよりも、大切なお金を競輪にどんどんつぎこんでしまうギャンブル依存症の怖さ、を深掘りした作品として、最後までひきこまれた。
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阪本順治監督の『半世界』(2019年公開)は、中学のころ仲よかった3人の男の、再会後の物語。
紘(稲垣吾郎)は、父親の仕事を引継ぎ、故郷で、備長炭の炭焼き職人をやっている。
光彦(渋川清彦)は、やはり故郷で、中古車セールを自営業でやっている。
そこへ学校を卒業して、いちどは自衛隊へはいった偀介(長谷川博己)が、故郷へもどってくる。
故郷でずっと働いている紘と光彦は、もどってきた偀介を歓迎し、旧交をあたためようとするが、偀介は、不機嫌でぎこちない。
この同級生3人の成り行きと、紘の、冷えかけている家族とのいきさつを中心に、物語がすすんでいく。
紘の妻・初乃を演じるのは、池脇千鶴。このひとはむかしからうまかったけど、歳をへてますます役者としての魅力を増している。
初乃という、故郷のなかだけで育ってきた女性の生活臭さを、ごく自然に発散している。それがわざとらしくない。
黙々とひとりで炭をつくる紘(稲垣吾郎)は、家族に対しては無口だけれど、同級生2人と一緒に飲むときは笑顔をみせる。
炭焼きの仕事をやっているときの、稲垣吾郎の何かを耐えているような硬い表情がいい。
阪本順治監督は、幼なじみ3人の、現在抱えている問題を太い筆致で描いていく。
元SMAPのふたりがシブい演技でみせた『凪待ち』、『半世界』、どちらも映画館で見逃したが、今回見ることができてよかった。