かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

映画『明日の食卓』〜浅田次郎の短編集『夕映え天使』(6月3日)。

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6月3日(木)、晴れ。


午前、「イオンシネマ板橋」へ、瀬々敬久(ぜぜ・たかひさ)監督『明日の食卓』を見にいく。


瀬々監督の作品は、最低。(2017年)、『楽園』(2019年)、『糸』(2020年)など見ているが、どれもどこか不満が残った。


前・後編にわかれた『64 ロクヨン(2016年)は、前編はよかったが、後編は失速していた。


今作の『明日の食卓』が、わたしが見た瀬々作品のなかで、いちばんよかったような気がする。






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菅野美穂高畑充希(たかはた・みつき)、尾野真千子の3人の女優がいい。それぞれのエピソードは、息子の名前が「石橋ユウ(名前の漢字はちがう)」(小学5年生)というだけで、別々の話が展開していく。


夫がカメラマンの石橋留美子(菅野美穂は、人気ブローガーで、それを読んだ編集者からフリーライターの仕事がもちこまれる。運が向いてきたようだ。しかし、兄弟の仲が悪い。夫がカメラマンの仕事をクビになってから、家庭のなかは最悪の状態になる。


裕福な実家をもつサラリーマンの夫と、学校の成績が優秀な息子をもつ専業主婦の石橋あすみ(尾野真千子。うらやまれるような暮らしをしているつもりだったが、ある日、息子の予期せぬ正体を知って、愕然となる。


シングル・マザー、石橋加奈(高畑充希は、アルバイトをかけもちしながらひとり息子を育てている。生活は楽ではない。しかし、加奈は元気で明るい(よそ目には)。おかあさんの苦労を知ってか、息子は我慢強い子に育っている。しかし、ある日加奈の遊び人風の弟がやってきて、彼女の全財産がはいった貯金通帳を盗んでいく。途方に暮れる母の悲しい姿に、息子のねじれた我慢がぶち切れていく。




この映画、3人の母の悲しみが伝わってくる。子供を愛しながら、自分のおもい通りにはいかず、ふいに、「見知らぬ子供」に変わってくる。夫は、妻の苦しみに無感覚だ。子育ての相談をしても、母親の育て方が悪いのでは、という。まるで話にならない。


シングル・マザー・石橋加奈の夫は、別な女性と、妻子を置き去りにして出ていったらしい(映画には出てこない)。


どれひとつまともな夫はいない(笑)。




菅野美穂、ひさしぶりに見たけど、よかった。たよりにならない夫と、喧嘩ばかりしている兄弟に、だんだんにキレてくる。鬼の形相になる(笑)。


尾野真千子。おかあさん自慢の優秀な息子が、あるとき見たことのない「怪物」に豹変。呆然としながら、それでも、子供を受けいれていく。


高畑充希は、山崎貴監督のDESTINY 鎌倉ものがたり(2017年)を見たけど、コメディ映画だったので、今作とは比較しにくい。『明日の食卓』のシングル・マザー役、明るく装いながら、クタクタに働く思い詰めた顔を見ていると応援したくなる。


3つのエピソードは、暗いままではなく、希望の光がさして終わる(少し技巧的だけど)。



夜、浅田次郎『夕映え天使』を読了。以前よんばばさんのブログ記事を読んで、ダウンロードした小説。おもしろく読んだ。






よんばばさんは、短編集のなかの「切符」について触れている。




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わたしは、地球に隕石が衝突して、人類が最後の日を迎えるSFタッチの特別な一日が印象にのこった。


地球への衝突が避けられないとわかってから、人類は衝突までの3年を、国家や宗教の争いをやめ、敬虔な日々を過ごす。


最期の日は、それぞれの国が自国の誇れる音楽を流した。

ドイツではベルリン・フィルベートーヴェンを演奏し、ウィーンでは華やかなシュトラウスが流れ続けている。


フランスはモーツァルトの予定だったのだが、最近になって国粋的な議論が起こり、ラベルかフォーレエリック・サティかと紛糾した末に、国民投票を行ってドビューシーが選ばれた。


つるひめさんやわたしがおもわずニンマリしてしまうのは、次のくだり(笑)。

秀逸なのはイギリスである。世界中のミュージシャンが結集して、ビートルズのナンバーを歌い続けている。ステージに立つポール・マッカートニーリンゴ・スターの人生は、羨んで余りある。俺の個人的趣味でいうなら、これを聞きたかった。


こうして人類は、争わず動揺することもなく静かに最後の夜を迎えていく。


いまロード・ショーで、グリーンランド 地球最後の2日間』というアメリカ映画をやっているので、見ようかとおもっていた。しかし、解説を読むと、アメリカ映画おきまりの「家族愛」が中心らしいので、やめてしまった(笑)。