川本三郎さんが書いた『成瀬巳喜男 映画の面影』が電子書籍になったので再読してみる。成瀬巳喜男はわたしのいちばん好きな映画監督だけれど、この監督の魅力を深堀りして教えてくれたのは、川本三郎さん。この1冊は、その集大成といえる。
成瀬映画の題材には、生活に困窮するひとたちが多く登場する。彼ら・彼女たちは、借金に追いつめられたり、個人商店がいき詰まって、お金の工面に歩いたりする。
たいてい問題は最後まで解決しないので、映画が終わっても、登場人物のその後の人生が心配になる。
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『成瀬巳喜男 映画の面影』の最初は、1952年公開の『おかあさん』について、その魅力が深掘りされている。
Amazonプライム(有料)にあったので、ひさしぶりに見てみた。
おかあさん - YouTube
『おかあさん』予告編。
1952年公開の『おかあさん』(脚本:水木洋子)は、長男(片山明彦)と夫(三島雅夫)が相次いで病死したため、おかあさん(田中絹代)が女手ひとつでクリーニング店を切り盛りしていく話。
途中、慣れない仕事を案じて「むかしご主人にお世話になった」という庄吉(加東大介)が手伝いにきて、お店は軌道にのりかけるが、女世帯に男が出入りしていると噂がたって、庄吉は出ていく。
この映画、状況は苦しいが、けっして見た印象は暗くない。厳しい生活を描きながら、こころがあたたまるシーンが多い。感傷に溺れない成瀬巳喜男の資質が発揮される。
映画の終わりは、再び女手ひとつで働く闘いがはじまるが、子供たちに見せるおかあさんの顔は明るい。
『おかあさん』の主演・田中絹代がとてもいい。苦境のなかで力強く家族を支えていく。
長女を演じる香川京子の可憐な美しさもみどころ。清楚とか可憐とかいう形容は、この映画の香川京子にぴったりあてはまる。
映画は、長女(香川京子)のナレーションで終わる。
「お母さん、私の大好きなお母さん、幸せですか。私はそれが心配です。お母さん、あたしの大好きなお母さん。いつまでも、いつまでも生きて下さい。お母さん」