この週末をかけて、待ちに待ったピーター・ジャクソン監督『ビートルズ:Get Back』(6時間)を走破した。
タイプスリップして、52年前のビートルズに会ってきましたよ。幸せな時間でした。画面は、とても半世紀前のものとはおもえないほどクリーンです。
以下、自由な感想を書きますが、会話などは映画を忠実に再現したものではありませんし、感じ方もあくまでわたし個人のものです。
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ビートルズは、テレビの特番に間に合わせようと、リハーサルを重ねて曲を完成させたいが、期日が迫っても、なかなか思うようにゆかない。
主導権を握っているのはポール・マッカートニー。ジョン・レノンは、奔放に自分のペースで演奏に参加しているが、彼の気持ちがのると、バンドじたいが一気に盛り上がってくる。
映像で見る限りジョン・レノンがビートルズに嫌気がさしているとは思えないが、つねに隣にいるオノ・ヨーコとときどきイチャツク(笑)。あまり気持ちのいいものではない。
ポールがいう。「ジョンにビートルズとヨーコのどちらを選ぶかと問いつめたら、彼はヨーコを選ぶだろう」。ポールもジョージもリンゴもジョンを切り捨てるつもりはない。だから、以前からの、家族も恋人もスタジオにはいれない、という不文律は壊れている。
アトランダムに演奏されるポールとジョンの新曲をスタジオで聴き、そこに適切なギターを弾こうと模索するジョージ・ハリスン。
曲の完成形が早見えするポールから、あれこれ欲しいギターのフレーズや音色を要求されるがうまくいかず、だんだん表情が険しくなっていく。
「ぼくは即興演奏は得意じゃない」とジョージはいう。「エリック・クラプトンのようには弾けない」
そうだとおもう。新曲を演奏するとき、ジョージのギターはいかにも「とりあえず」というフレーズで、間奏を間に合わせる。
しかし、ビートルズ・ファンは知っている。その曲が完成に近づくときには、この曲にはこの間奏しかない、というようなフレーズを、ジョージは用意してくる。手癖で弾けるような器用さはないけれど、だから同じようなフレーズがなく、1曲1曲いつも新しい。
が、この時期新しいアルバムにふさわしい曲ができあがらず、ポールは焦っているのか、ジョージのギターに注文を繰り返す。ジョージにカメラが近づく。ジョージから笑顔が消え、厳しい顔になって、ついには「おれは辞める」といって帰ってしまう。
いうまでもなく、ジョージはポールのバック・ミュージシャンではない。
映画『レット・イット・ビー』でも、断片的にポールの注文に苦労するジョージの姿が映されていたけれど、こちらはもっと長い時間その状況を映しているので、彼の心のなかの苦しさがわかる。
ジョン・レノンは、「辞めるなら辞めたらいい」という。「エリック・クラプトンを呼ぼうか」。
どこまで本気かはともかく、ジョンの辛辣さがそのひと言にあらわれている。ヨーコとの「恋愛」が発覚したあと、シンシアに一度も会わないまま、一方的に彼女に離婚を迫ったジョンの非情さを思い出してしまう。
ポールはポールで、バンドを継続していくことのむずかしさに苦しんでいるのがみえる。彼が手綱を離したら、ビートルズは即解散になってしまう。
リンゴ・スターは、ポールの要求をソツなくこなしているように見えるが、顔には疲労が明らか。顔を仰向けて、目をつむっているようなシーンもある。
3人になったビートルズのリハーサルは精彩がない。不在になると、ジョージ・ハリスンの重要さがみえてくる。
バンドの今後を話すため、ビートルズは4人で話し合いをもとうとするが、ジョージはリバプールにいっていて留守だという。
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まだ1回見ただけでの粗い感想だけど、ジョージ脱退事件で「Part 1」が終わる。
エンディングにかかるのは、ビートルズではなく、ジョージ・ハリスンの「イズント・イット・ア・ピティ」。デモ録音が、響く。
悲しいと思わないかい?
今、残念じゃないかい?
僕らお互いに傷つけ合うなんて
お互いの苦痛になるなんて
僕らお互いに奪うばかり
何の考えもなく
与え合うことなど忘れている
悲しいと思わないかい?
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意外なのは、予告編で見たような和気あいあいでふざけあうビートルズの姿だけではないこと。もっと彼らの真実に迫ろうというのがピーター・ジャクソン監督のネライではないか、とおもった。
予告編にある陽気なビートルズは、50年前に公開された映画『レット・イット・ビー』とのちがいを際立たせるためであったかもしれない。
ということで、まだまだビートルズとの濃密な時間が続くわけだけれど、また後で(笑)。