かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

ブレイディみかこ著『ワールドサイドをほっつき歩け』からの抜き書き。






ブレイディみかこ著『ワイルドをほっつき歩け』のなかに、イギリスでも新自由主義が進んで、国民が医療制度の問題で苦しんでいる‥‥そんな話が出てくる。


「緊縮財政」で、政府が国民におカネを出さない。そのしわよせが、医療制度にも反映されている。




以下、抜書きです。

英国の医療制度というやつは、大まかに分けてNHS(国民保健サービス)プライベート(民間医療施設)の二つに分かれる。で、早い話が、自分でお金を払って治療を受ける人はプライベートを、無料で治療を受けたい人はNHSを利用することになる。




(『ワールドサイドをほっつき歩け』より)


つまりは、無料か全額負担か二分される。


無料のNHSは、希望者が集中して、予約をとるのが、きわめてむずかしいという。診察までたどり着くのが容易でない。


本のなかでは、利用がどれほど困難か、具体例がずっと書かれていますが、それははぶきます。

なんでNHSがそんないけずなことをするのかというと、一言でいえばカネがないからだ。政府が2010年から緊縮財政を始め、NHSへの支出をケチってきたばかりか、NHSの切り売り民営化を進め、その結果かえってNHSの経営状態が悪化している。




(同書より)


1945年労働党政権が誕生し、ゆりかごから墓場まで福祉国家時代の英国を築く。その目玉が医療の無料化であるNHSだった。


しかし、、、

2010年保守党政権緊縮財政を始めたとき、英国では平均寿命の伸びがぱったり止まった。「ほら緊縮財政のせいだ!」「だから政府は財政支出を行え!」とわたしのような反緊縮派と呼ばれる人間は嬉々として叫ぶ。が、それは、実際にはこういうことなのだ。




(同書より)


癌のような一刻の猶予も許されないシリアスな疾患を扱う病院でも、医師の診察に数ヶ月待たされる。こうなってくると命にかかわるような病気は、NHSの診察日まで待ってられない。

となると、いわゆる全額負担(プライベート)の高額治療を受けざるをえなくなる。


しかし、これは大きな出費になるので、裕福でないひとたちは、治療に二の足を踏んでしまう。

もともとは貧富の差や人種の違い、国籍など関係なく、すべての人を平等に無料で治療するという美しい理念で発足したNHSが、人々の羨望や憎悪や分裂を作り出している現状は皮肉だ。これ、どうしてこんなことになってしまったのかというと、何度も何度も何度もわたしはいたるところで書きまくっているけれども、やっぱりもう一度言うが、緊縮財政のせいである。


英国在住者はすべて無償で等しく面倒見ますという太っ腹な国家医療制度に、国家がケチって財政を投入しなくなったから立ちゆかなくなったのだ。で、財政を投入できない理由は「国が借金だらけで破綻するから」という、いつもの新自由主義a.k.a.「小さな政府最高」主義)のギミックである。




(同書より)


「緊縮財政」で、必要なところにお金をケチるのは日本政府も同じ。自民党政権が推し進めてきた新自由主義「国が借金だらけで破綻するから」ともっともらしいウソの理由をつけて、庶民にはお金を出したがらない。



(そのくせ、自分たちがいいとおもえば、閣議決定で大事なことを決めてそこに出費することは惜しまない)




ブレイディみかこさんは、過去、NHS制度に助けられた。

が、わたしのような日本人からすれば、むかしが良すぎたのかなという気がまったくしないわけでもない。だってわたしなんかは、NHSから無料でIVF体外受精)治療をしてもらって妊娠し、出産もタダだったわけだし、連合いも無料で癌の治療を受けた。もしNHSが存在しなければ、たとえばここが日本だったりしたら、子どももいないし、配偶者は癌で死亡して、天涯孤独の身になっていただろう。わたしに家族がいるのはNHSがあるからだ。


(略)


かようにNHSの理念は美しく、素晴らしい。英国は、たとえ王室を廃止しても、NHSだけは守らなければいけないという人々の主張は感動的だし、わたしもそう思うし、是非そうお願いしたい。




(同書より)





ブレディみかこさんの『ワイルドサイドをほっつき歩け』は、英国の問題が、いま日本が置かれている厳しい状況と共通するものがあることを教えてくれる。


王室への考え方は、ジョン・ライドンセックス・ピストルズが好きなブレイディみかこさんなら、なっとくがいく(笑)。


安倍晋三国葬は論外としても、英国女王の国葬にも、わたしは興味がわかない。