かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

積み残し映画〜『658Km、陽子の旅』(熊切和嘉監督)と、フィリップ・ノーマン著『ポール・マッカートニー ザ・ライフ』。




8月9日㈬、炎暑。
テアトル新宿」へ、熊切和嘉(くまきり・かずよし)監督の『658Km、陽子の旅』を見にいく。


早く着いたので、新宿駅構内のカレー&コーヒー・ショップで、昼飯。時間まで本を読む。


フィリップ・ノーマン著『ポール・マッカートニー ザ・ライフ』。




電子書籍なので、本の厚みやページ数を確認しないで読みだしたら、なかなか先へ進まない。分量がかなりあることがわかった。


フィリップ・ノーマンは、むかし『シャウト・ザ・ビートルズ』(イギリスで原書の刊行が1981年)という伝記を読んだことがある。でも、他の伝記と比べてどういう特徴があったかもう忘れてしまっている。


ノーマンの『ポール・マッカートニー ザ・ライフ』の「プロローグ」によれば、『シャウト・ザ・ビートルズ』では、ビートルズの3/4は、ジョン・レノンだった、という視点で書いたという。


1981年刊行、といえばジョン・レノンが射殺された翌年。ジョンの視点に傾斜するのも、しかたがないか。


でも、いまはもっとポール・マッカートニーの存在の大きさに気づいた、とか。それはよかったけれど、次にビートルズ関連の本を出すときは、もう一歩心をひらいてほしい。このバンドが4人組であったことの素晴らしい奇跡に…。


ポール・マッカートニーが歩んできた「長く曲がりくねった」人生が、ビートルズ時代、ビートルズ解散後も、比較的近年に至るまで書かれている(らしい)のがうれしい。


ビートルズ解散後のほうが(それも近年になればなるほど)、情報量が少ないので、知りたいことがたくさんある。




熊切和嘉監督『658km、陽子の旅』。

就職氷河期世代である42歳の独身女性・陽子は、人生を諦めてフリーターとしてなんとなく日々を過ごしてきた。そんなある日、かつて夢への挑戦を反対され20年以上疎遠になっていた父の訃報を受けた彼女は、従兄の茂やその家族とともに、東京から故郷の青森県弘前市まで車で向かうことに。




(「映画.com」から)

www.youtube.com



熊切和嘉(くまきり・かずよし)監督を意識したのは、佐藤泰志原作の『海炭市叙景』(2010年)を見てから。


そのとき、すでに佐藤泰志は、自殺していたが、その後次々佐藤泰志原作の映画化が続いていく。『海炭市叙景』は、そのキッカケになった映画だった。



42歳の陽子を演じるのは、菊地凛子。久々に彼女が主演する映画を見た気がする。しかし、陽子が、人から話しかけられてもろくに返事もしない陰気な女性役だったので、最初気持ちがノラなかった。


陽子は、自分の夢を求めて、反対する父と衝突。そのまま東京へ出てきて、20年以上会っていなかった。


しかし、どうやら(映画には詳細は描かれていない)、陽子の夢は、おもうようにならず、いまはアルバイトでなんとか食いつなぐ日々…。


父の訃報を知って、陽子は、従兄の茂と彼の家族とともに、東京から青森県弘前市まで、車で行くことになるが、途中アクシデントがあって、従兄の家族たちとはぐれてしまう。


そのあとは、ひとりヒッチハイク青森県弘前市へ行かなければならなくなる。


人とのコミュニケーションができない陽子にとって、見知らぬ車を止め、「青森へ行きます。途中まで乗せてください」とお願いするのは、相当困難なことだと、想像がつく。


最初陰気だなあ、とおもっていた菊地凛子の抑えめな演技が、だんだん名演にみえてくる。というか、実際名演だった。


陽子は、何人かの人と出会う。車に乗せるかわりの代償を求めてくる男もいるし、女性のひとり旅を心配してくれる優しい老夫婦とも出会う。


「658㌔の旅」の終わり……。


陽子が、喜びの表情を見せたり、かすかに笑うと、長年沈殿していた自己嫌悪や社会へのストレスが、いま氷解しつつあって、新しい人生がひらけてくるんじゃないか、っておもわせてくれるが、わたしたち観客がそうおもいたい、だけかもしれない。


そんな一発逆転は安価なドラマのなかでしかない、ともおもう。



テアトル新宿」を出て、立呑み「春田屋」へ寄る。生ビール、酎ハイ、ホッピーと飲んだら、帰り意外に酔っていた。