かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

川本三郎著『「男はつらいよ」を旅する』〜三宅唱監督『夜明けのすべて』。

2月13日㈫。
イオンシネマ板橋」へ、三宅唱監督の『夜明けのすべて』を見にいく。早めに出たので、駅前の「コメダ珈琲」で、1時間ほどモーニング・コーヒー・タイム。


以前紙の本で読んだ川本三郎著『「男がつらいよ」を旅する』が電子書籍化されたので、拾い読みする。







川本三郎氏は、部分的にわたしの好みと共通するものがある(知識の広さ読み込みの深さは別にして)。

  • 好きな漫画家がつげ義春であること。
  • 好きな映画監督が成瀬巳喜男であること。
  • 寅さんのファンであること。
  • 集団よりひとりが好きなこと。


寅さんは、柴又では駄々っ子になって、妹のさくらやおばちゃん、おいちゃんに迷惑をかけるが、旅先では、別人になる。


無人駅でいつ来るかわからない電車を待ち、一面に咲く菜の花の中を歩き、古い木橋を渡り、遠い海を眺める----「孤独な旅人」になる。


その「旅人としての寅さん」が歩いたロケ地を追いかけたのが、川本三郎著『「男がつらいよ」を旅する』。


無人駅は壊され、単線電車は廃線になり、木橋はなくなるか、新しくコンクリートに建てかえられている。寅さんが見た日本の風景は失われつつある。


渥美清の生前に公開された最後の作品が『男はつらいよ 紅の花』(第48作)。公開日は、1995年12月23日。それから28年が経っている。



午後1時から、三宅唱監督『夜明けのすべて』はじまる。






PMS月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さんは、会社の同僚・山添くんのある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、藤沢さんと山添くんの間には、恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。やがて2人は、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになる。


(「映画.com」より)
https://eiga.com/movie/98942/


www.youtube.com




傑作『ケイコ、目を澄ませて』で、各映画賞に名をつらねた三宅唱監督。次の作品は、期待のハードルが高くなるだろうな、っておもっていたが、この作品もすばらしかった。



こんな優しい職場があったら、どんなに毎日がたのしいだろう。


社長(三石研)の心のあたたかさ。光石研が、自然でいい味を出している。従業員がみんな互いにいい距離をとって、思いやっている。


この映画でわたしがおどろいたのは、まず第一にそのこと。


◯競争社会で勝ち抜く。
◯生産性でひとの価値を評価する。


そんな日本の現状を笑ってしまいたくなるほど、この映画に描かれる職場はわたしには理想的に見える。



中学生の新聞部なのか。社員へインタビューする。
「この会社のいいところはなんですか?」
社員のひとりは、少し考えて、
「いいところ----いいところなんてあったかなあ」
もうひとりは、
「駅から少し遠いかなあ」と答えにならない感想をいう。


会社の平穏な雰囲気をあたりまえのように享受しているのが、可笑しい。


主演の上白石萌音松村北斗も、演技が自然でよかった。PMSの症状が出て、上白石萌音がいちいち文句をつけるシーンも、悪いけれど笑ってしまう。


脇役の一人ひとりに至るまで過剰な演技をしない。徹底している。こういう抑制的な映画も増えたな。ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』もそうだった。


主人公のふたりがパニック障がいとPMS(月経前症候群)という心の病をかかえている。職場で変調をきたすことがある。そのときの周囲の対応が優しい。ことさら親切を押し付けるわけでもないが、優しさが伝わってくる。


こういう職場…こういう社会にこの国がなったらどんなにいいだろう、とおもってしまう。


それでいて、歯が浮くようなセンチメンタルな映画にはなってない。演技は自然だし、過剰な好人物を登場させてもいない。涙の押しつけもない。非常に慎重だ。


『ケイコ、目を澄ませて』のような強烈さはない。でも、そのあとの作品としてちっとも気負っていないのが好ましい。


エンディングのシーンも見逃せない。


会社のお昼休みだろう。キャッチボールをやったり、植木に水をかけたり、従業員はのびのびと思い思いにすごしている。


この映画のあたたかさを象徴している。





『夜明けのすべて』公式サイト
https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp



妻はわたしより先に瀬尾まいこの原作を読んでいる。後半は原作と映画は違っているという。原作を読むのが楽しみになってきた。