かぶとむし日記

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短編小説の名手=丹羽文雄、100歳の死

丹羽文雄丹羽文雄は小説の修行時代、志賀直哉の短編を1字1句原稿用紙に書き写したといいます。小説の神様といわれた志賀直哉の、文章の息づかいを会得するためでした。

志賀直哉直伝、丹羽文雄の文章はギリギリまで切り詰められて、いつか志賀直哉よりも短くなっていました。

短い文章はアメリカのハードボイルド小説の特徴でもありますが、丹羽文雄の文章にはこのハードボイルド小説との共通点も感じられます。登場人物を突き放して描く、心情描写をできるだけ省いて行動から人物の心を映す……丹羽文雄の文章を読みながら、ハードボイルド的手法はこうやって一般の小説にも活用できるのではないか、とおもったものでした。

ぼくは初期の短編作品を愛読しました。実母をモデルに書いた「鮎」の容赦ない人物の描き方に感銘を受け、それからしばらくは丹羽作品を読み続けました。

しかし、いつからか丹羽文雄の描く登場人物に共感がわかなくなってぷっつり作品を読むことがなくなりました。異常な多作ぶりにもついていけなくなりました。いまでも思い出すのは、やはり初期のみごとな短編作品です【END】