かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

1963年のサラリーマンは「気楽な稼業」だった?

江分利満氏の優雅な生活池袋の新文芸座岡本喜八監督の特集をやっています。なかなか仕事明けのいい日にぶつからないので見たくても見られませんが、今日(5月27日)やっと行ってきました。

江分利満氏の優雅な生活」は、むかし山口瞳の原作を読んでおもしろく、それからしばらくのあいだ、山口瞳の小説をまとめて読んだことを思い出します。

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映画「江分利満氏の優雅な生活

小林桂樹主演、1963年の映画である。現代にあるような仕事そのものへの焦燥感はなくて、サラリーマンは「気楽な稼業」に思われた時代なのだろうか。会社の屋上で社員たちは、バレー・ボールをやったり、コーラスをやったり、ゴルフの練習をやったり、そういう「お昼休み」ののどかな光景は、いまではちょっと奇妙に映る。

主人公の江分利満氏は、大正15年生まれ。亡くなったわたしの父と同じだ。父のことをちょっと思い出す。父は、江分利満氏と同じ時代に育ったのだ。

彼らは、若くして、戦争を経験し、180度価値観が逆になった戦後をいきていく……この映画は、そういう時代を生きた「江分利満氏のお酒の愚痴」を軽妙に描いたもの、ともいえる。

江分利満氏を演じる小林桂樹もよかった。名演だ、とおもう。とうとうとクダをまくシーンも、彼の表情で惹きつける。

妻役の新珠三千代もよかった。「氷点」の冷たいイメージが定着してしまったが、このころは若く、飄々とした江分利満氏の若き妻の役をこなしている。お酒飲みには、こんな理解ある妻が欲しい、そうおもわせるような妻の像だ。

もう一度、原作も読みたくなった。

併映は、宝田明司葉子主演の「月給泥棒」(岡本喜八監督)。1962年作品。コメディ。