かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

東峰夫「ママはノースカロライナにいる」

ママはノースカロライナにいる
1972年に、「オキナワの少年」で芥川賞を受賞した東峰夫の近作。「ガードマン哀歌」(2002年)と、「ママはノースカロライナにいる」(2003年)が収録されています。

このきわめて寡作な作家は、芥川賞を受賞してからも、肉体労働をし、「書きたいものだけを書く」姿勢を貫きます。しかし、それが各出版社の編集者からそっぽを向かれる原因ともなり、仕事らしい仕事がはいらない、状況になります。

それから30年‥‥久しぶりに発表された作品2つ。

ガードマン哀歌」では、沖縄に妻子を残し、単身状況した主人公は、ガードマンの仕事で生計をたてながら、思索し、日記にその経過を書きつづけます。いつ発表されるともメドのたたない文字をつづり、思索をつづける主人公の姿には、作家としての執念を感じますが、また新しい男性と暮らす妻への嫉妬、絶ちがたい子供たちへの思いなど、人間らしい苦しみがひしひしと読み手に伝わってくる作品でもあります。本当に作家であるということは、命がけなのですね。突然ですが、太宰をおもいました。

ママはノースカロライナにいる」では、芥川受賞後の沖縄での生活が書かれています。作品は発表にならず、生計は妻の仕事で、なんとか食いつないでいる。そして、甲斐性のない夫に苦しむ妻には、新しい恋人ができてきます。妻への嫉妬に苦しみながら、主人公は妻子と別れ、単身東京へ戻って、作家として、もう一度挑戦することを決意します‥‥。

時系列としては、「ママはノースカロライナにいる」が、芥川受賞後の作者の生活、「ガードマン哀歌」が、再び妻子と別れてから東京へもどってきた作者の生活、が描かれています。

索漠とした、そしてあまり器用とは言えない小説ですが、現在では死語になった「作家魂」のような気迫を文章の隅々から感じとることができる作品集でした。