かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

成瀬巳喜男監督「晩菊」

ringoさんが「晩菊」というタイトルから、ロマンティックな映画を想像し、裏切られたというのが、可笑しいですね。ringoさんらしくて、つい笑ってしまいます。だって、「晩菊」は、元芸者の杉村春子が金貸しをやって、したたかに戦後を生き抜いていく、いわば「守銭奴ものがたり」ですもんね。ringoさんの生活とは遠いお話のような気がします(笑)。

ringoさんの「晩菊」の感想は、こちら

でも、この憎まれ主人公を悪役にも、滑稽にも描かない、そんなところに生粋の「成瀬印」映画を見るおもいがします。成瀬巳喜男は、あまり売れなかった元芸者が、お金だけを頼りに、むかしの仲間にさえ嫌われるのを承知で生きていく姿を、肯定も否定もせず描いています。もっといえば、心の底で成瀬巳喜男は、この守銭奴に、かすかに共感を寄せているのかもしれません。だって、およそ映画の主人公になりそうもない女性を、あえて主人公にしていることじたい、なんらかの共感がなければやれませんもんね。

守銭奴を演じる杉村春子が、もう実にみごとで、これを演じるのは彼女しか考えられません。杉村春子という女優がいて、この映画が実現した、とおもえるくらい、主人公の女性に、生きた血を吹き込んでおります。こんな拝金主義の女性が、一瞬むかしの男(上原謙)が訪ねてくると知って、「女性」に立ち返るシーンなどは、この映画のクライマックスでもありますが、現実はおもったようにはいかないもので、ものの見事に彼女の甘い空想は裏切られ、男よりもお金お金……と目の覚めた彼女は、今日も、借金の取立てに奔走していきます。

善意に囲まれて、箱入りのお嬢さんから、深窓の奥さんをずっと継続している(?)ringoさんが、なんとか杉村春子に共感するところを探そうとしているところが素敵で(笑)、思わずトラックバックしてしまいました。でも、ringoさん、「晩菊」はよかったでしょ(笑)。