かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

溝口健二監督『祇園囃子』(1953年)


祇園の姉妹』や、のちの『赤線地帯』へ引き継がれる、色街に生きる女性たちのものがたり。美しい芸妓の世界を描きながら、溝口健二の眼は、厳しいリアリズムで貫かれています。

人気芸妓の美代春(木暮実千代)は、生活のために芸妓を志望する少女栄子(若尾文子)をひきとる。あるとき、美代春も栄子も、客に強く望まれながら、好きでもない男へ身を任せることを拒んだため、祇園の実力者である「おかあさん」(浪花千栄子)から座敷を締め出される。仕事を失った厳しい制裁が、二人の生活を追い詰めていく。美代春と栄子は、互いに自分が身を任せて、この苦境から相手を救おうとするが、美代春は、栄子のまだ汚れていないからだを守るため、自分が身を任せて、栄子を守る。

美代春が身を売ったことで、「おかあさん」の制裁はとかれ、義理の姉妹は、またそろって祇園の街へもどっていく。


祇園囃子』は、『祇園の姉妹』とタイトルで混乱しそうですが、こちらは義理の姉妹が厳しい制裁のなかで、互いに強い愛情の絆を発見していくものがたりであります。義理の姉妹を演じる木暮実千代若尾文子の美しさもみどころの1つでしょう。

タイトルの類似だけでなく、男性たちの身勝手さが女性を苦しめることでも『祇園の姉妹』と『祇園囃子』は共通しています。溝口健二の作品全体に一貫する男性観かもしれません。

印象的なシーンでは、座敷に出られなくなった美代春が、畳にすわりながら、傍らに散らかっている着物の紐をさりげなく結んだり、考え込みながらも、羽織のようなものをきれいにたたむ一連の動作など、『祇園囃子』は、細部にこだわる溝口健二の演出が随所にひかる名作でした。