かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

清水宏監督『簪(かんざし)』(1941年)


簪 [DVD]

小津安二郎溝口健二という名立たる名匠をして“天才”と言わしめた清水宏監督の「簪(かんざし)」が遂にDVD化。東京から温泉場にひとりやってきた恵美。風呂場で彼女が落とした簪がきっかけで巻き起こる、温泉場の滞在客の人間模様を綴った珠玉の一篇。


(「goo映画」解説から)


ひと夏、温泉場に滞在することになった人々を、互いに深入りしたり、詮索することなく、その交流をあたたかく描いた作品。



登場するのは、小言と苦情がおおい<学者先生>(斎藤達雄)、心の優しい青年(笠智衆)、気の弱い夫とその妻(日守新一、三村秀子)、碁の好きな老人(河原侃二)と、その孫たちなど。


そこに、簪(かんざし)を宿に忘れてもどってきた<わけありの女>(田中絹代)が加わる。


彼らは、温泉場で、ひと夏をともに過ごす。


しかし、やがて夏が終わると、男*1と別れて、戻る場所のない<わけありの女>ひとりを残して、みんな東京へ去っていく。


去っていくのは男たちで、残されるのが美女ひとり、というのもおもしろい。


誰もいなくなった秋の寂しい温泉場を、女がひとり歩くところで、映画は終わる。


淡い静かな余情が心地よかった。



小言や苦情の多い<学者先生>さえ、一同は仲間から排除することなく、なにかにつけて気を配り、互いの時間を共有する。


たびたび日傘をさした美しい女(田中絹代)が映される*2


清水宏監督は、その女の暗い背景に、深くはいりこむことはしない。ただ、出会った人々との交流のなかで、しばしば彼女の幸せそうな笑顔を、印象的に描いていく。



やはり、温泉宿の人間模様を描いた『按摩と女』とは、姉妹編のように共通点が多い。

*1:男は、映画には登場しない。彼女はその男の囲われものだったことを想像させるだけ。

*2:日傘の女は『按摩と女』にも登場する。