かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

新藤兼人監督の映画2本

新藤兼人監督では、むかし見た『鬼婆』という作品が強く印象に残っています。戦乱の時代を舞台に、欲望に飢えた母と娘が、動物のように同じ男をとりあう凄絶な映画でしたが、神秘的で詩情にあふれていました。いい意味で、テーマのどぎつさを、抽象化することに成功したのだとおもいます。こういう手腕は、小津にも成瀬にも溝口にも、ないものかもしれません(溝口にはあるかな?)。黒澤明の『羅生門』には、同じ抽象化を感じます。

その後、いろいろ見ているとおもいますが、今回久しぶりにレンタル屋さんで、古い作品を借りてきました。それが大当たり! 新藤兼人作品おもしろいです。

『落葉樹』(1986年)

落葉樹 [DVD]
著者の母への追慕を映画化した、とおもわれるような深い味わいに満ちた作品でした。

地方の、旧家と自然と優しい母(乙羽信子)の愛のなかで、幸福な少年時代を過ごしていた私(山中一希)ですが、父(財津一郎)が保証人の判を押したのが原因で、田畑、山、さらに屋敷までを手放すことになり、一家は没落していきます。

キセルをくゆらすだけで、何1つ実際的な対策をたてることのできない無能な父。母は父の分まで、一家を背負って苦しみます。

しかし、母の苦しみを、当時少年は理解できませんでした。老齢になった主人公(小林圭樹)は回想します

母といったお祭り(厳島の管弦祭)の露店で、少年の私はおもちゃをねだります。が、いつもは買ってくれた母がどうしても買ってくれません。母はおもちゃを買うお金がなかったのです。少年は癇癪をおこし、地べたに寝転んで足をばたつかせ、母を何度も蹴ります。ただ困ったように笑っている母……その苦い思い出が、老年になった主人公を、強い悔恨となって責めさいなみます。

しかし一方で、、、

蝙蝠が飛び交う夕方、畑の中で子どもたちが遊んでいるのどかな風景。屋敷の前で母が「夕飯ですよ、早く帰ってきなさい」と呼んでいる……これが少年がしきりに思い出す、優しい母のいる原風景でした。

美しい作品です。これほど、直球で母を思慕する映画は少ないのではないか、とおもいますが、不自然には感じませんでした。


『縮図』(1953年)

縮図 [DVD]
原作は徳田秋声佃島の貧しい靴屋の長女が、芸者の世界にはいり、男に次々翻弄されながら、世間の汚辱にまみれていく姿を、自然主義的リアリズムで描いていきます。

主人公の銀子を演じるのは、乙羽信子。可憐な少女から少しずつ逞しい女性に成長(?)していく姿を、体当たりで演じきっていました。それから、成瀬作品では、善良なおかみさん役のおおい山田五十鈴が、非情な置屋の女主人を演じています。

成瀬巳喜男作品、溝口健二作品と同じく、ここでも男性のエゴイズムが、女性をお金で縛って、自由と幸福を冷酷に奪いとっていく社会の「縮図」が、執拗に描かれていました。最近、このテーマの映画ばかり見ているようですが、どれも出来がいいので見入ってしまいます。