かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

溝口健二監督『夜の女たち』(1948年/松竹)

夜の女たち [DVD]

瓦礫の風景が残る戦後間もない大阪新世界を舞台にパンパン(街娼)の群れをリアリズムで描き当時大ヒットした。トップスター田中絹代がパンパンに転落した戦争未亡人という汚れ役を熱演し話題を呼んだ。


(「新文芸座」パンフレットより)


強烈な溝口リアリズムで貫かれた作品。戦後の街娼の、荒れ果てた精神風景が恐ろしいくらいみごとに描かれている。


◆   ◆   ◆


和田和子田中絹代)は、売れるものはすべて売っても、なお赤子(あかご)を育てる食べ物がなかった。待っていた夫は結局戦死して帰らない。唯一和子を支えていた赤子(あかご)は、幼児結核で、十分な栄養もとれぬまま死ぬ。


ひとりになった和子は、夫が生前努めていた会社の社長・栗山の世話になる。栗山の愛情の告白で、和子はわずかな平安を得るが、好色な栗山は、朝鮮から帰った和子の実妹・夏子とも関係をもつ。男と妹の裏切りに、和子は絶望する。


突然姿を隠した和子は、街娼となっていた。和子の精神は荒廃し、男からもらった梅毒を、男という男へ「バラまいてやる!」、と訪ねた妹・夏子にうそぶく。


◆   ◆   ◆


救いがない。若い女性は男にアッサリ騙され、売られて、街娼に転落していく。騙される女がバカなのだ。街娼たちは病気に汚染され、それが男たちに伝染していく。


田中絹代のパンパン(街娼)も、溝口演出は容赦がない。スターが演じるときありがちな<同情をさそう>パンパンではない。田中絹代は、体当たりで、心の荒れた街娼を演じる。凄い女優だ、と改めて感心。


前日(9月11日)見た『残菊物語』、『マリヤのお雪』のわずかな不満が、これで晴れた。溝口健二のリアリズムに圧倒される。