かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

成瀬巳喜男の経済感覚(tougyouさんのコメントから)


成瀬巳喜男の映画では、登場人物ひとりひとりが常に厳しい経済感覚を背景に描かれています。お金をどう都合して生きるか、が成瀬巳喜男作品の最大の課題ででもあるかのようです。


以前、成瀬巳喜男映画の理解者であるringoさんから、、、


「成瀬作品を見ていたら、出てくるひとがあんまりお金お金というので気分が重くなって、気分転換に『麗しのサブリナ』を見ました(笑)」


というメールをいただいたことがあります。成瀬巳喜男の理解者でも、時々はこんなやるせない思いになるくらいだから、それはじつに徹底しております(笑)。


また成瀬巳喜男は、映画を製作するなかでも、製作期限は厳格に守り、毎日サラリーマンのように定刻に開始、定刻に終るように撮影し、フィルムは予定の長さを少し余すくらいで、きっちり最初に組まれた予算のなかで、映画を完成させたともいわれています。


黒澤明の例で明らかなように、名匠・巨匠といわれるような映画監督は、よい作品を創るためには、予算をはみ出しても、徹夜作業が連続しても、ひたすら、その企画を最高の形で完成させようとするのが、一般的なイメージですが、成瀬巳喜男はその点で、異色性が際立っています。


成瀬巳喜男の映画に詳しいtougyouさんに、「成瀬巳喜男の経済感覚についてどのようにお考えでしょうか」と質問してみたら、次のような素晴らしい、そして的確なコメントをいただきました。コメント欄のままだと、あとで見たいときに検索しにくいので、本文に引用させていただきます(tougyouさん、事前に承諾を得なくてすみません)。

beatleさん、やはり成瀬巳喜男の経済感覚は、作品に関しては、生きることの基本の食べていく為の金銭関係をきちんと描けていなければ、恋も家族の絆や愛情も、ほんとうに描いたことにならないという考えがあったのでしょうね。


東宝という映画会社に対しての製作に関しての成瀬巳喜男のイメージは、自分が与えられた製作費・スケジュール等の範囲内で、最大限の知恵と真剣さで見事な工芸品をつくる名工のような感じです。瞬間に沸き起こる閃きや天性でつくりあげるのでなく、持続できる醒めた冷静な情熱だけが成し遂げることの出来る最高のものをつくったのだと思います。


名誉とか賞も受動的で、自分の作品を理解してもらえるひとに評価して貰えれば満足という感じでしょうか。


いい文章ですね。深く同感です。うまくいい表せないぼくの気持ちを、簡潔に表現してくださって、tougyouさんに感謝しています。