かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

パティ・ボイド/ペニー・ジュノー著『パティ・ボイド自伝/ワンダフル・トゥディ』

f:id:beatle001:20210720100357j:plain




ジョージ・ハリスンエリック・クラプトンが、ひとりの女性をめぐって確執をもちながら、生涯友情が壊れることがなかったことは、ロック伝説の1つとなっている。


ジョージはパティに「サムシング」を捧げた(ジョージ本人は、日本へ来日する前のインタビューでそのことを否定しているが、パティは自伝のなかで、それを認めている)。


エリック・クラプトンは、ジョージ・ハリスン夫人だったパティへの熱い想いを名曲「レイラ」に結晶させる。さらに一緒に暮らし始めてからは、美しいバラード「ワンダフル・トゥナイト」を捧げた。


なんて幸福な女性だろう?


そのパティ・ボイドが自伝を発表した。



両親の離婚、新しい厳格な義父を怖れた少女時代は、あまり幸福ではなかったようだ。義父を怖れ、母の愛情を十分に得られなかったパティは、兄弟姉妹との結束が強い。そのことがつねにパティの心の支えとなっていく。


モデル生活を続けるなかで、リチャード・レスター監督の誘いで、ビートルズ主演映画『ビートルズがやってくるヤア!ヤア!ヤア!』に出演。女優になりたい希望などなかったが、セリフがないというので、出てみた。


パティには、当時それほど好きでもない恋人がいた。ただ、乞われるままに、初めて性的な関係を持った<恋人>だった。


それで、ジョージからデートに誘われたとき、最初は断ってしまう。ジョージはもう一度、パティに声をかける。パティは、それを待っていた。そして、もう断ることができないことが、わかっていた。


熱烈に愛し合い、ジョージと結婚。ツアーでほとんど家にいないジョージを待ち続ける孤独な日々がはじまる。そして、ジョージにはスターを追う女性の影が絶えないことも、パティを悩ませる。


マハリシ・ヨギの瞑想体験に、ジョージを誘ったのは、パティだったが、ジョージはパティの予想をはるかに超えて、インド音楽とインド思想に傾倒していく。


二人の豪邸には、たくさんの若い修行僧が住むようになり、ジョージはそれをあたたく迎えた。ジョージは自室で瞑想にはいる時間が長くなる。パティは、疎外感を感じる。ジョージの心がわからなくなった。


そんなとき、パティはエリック・クラプトンから熱烈な求愛を受ける。パティが断ると、クラプトンはドラッグに溺れていく。それほど必要とされているのなら、パティはジョージのもとを去る。


しかし、エリック・クラプトンは、感情の起伏が激しく、気難しい男だった。ドラックをやめてからは、大量のアルコールを飲み、パティに辛くあたった。これでは、なんのために、ジョージのもとを去ったのか、わからない。


ジョージ以上に、クラプトンにはつねに女性の影がつきまとう。パティは、嫉妬に苦しむ。思い切って、クラプトンのもとを去ると、熱烈な求愛の手紙がクラプトンから届く。しかし、また戻ると、冷酷な仕打ちと、嫉妬に身を焼く地獄が繰り返される。


パティは、妹をたよってクラプトンのもとを永遠に去る。クラプトンへの愛情は強かったが、もどればますます地獄へ堕ちていくのがわかった。


もう、誰にも頼らず、ひとりで生きていかなければならなかった。



ジョージのもとを去った後悔が時々強く湧く。ジョージは、オリビアと結婚してからは、たまに会うと、兄のように優しかった。


クラプトンは、時々熱烈な求愛の手紙をよこし、もどってくるように言うかとおもうと、パーティで出くわすと無視することもあった。


ジョージとは大きな愛の触れあいがあったが、クラプトンとは男女の激しい情熱で惹かれあい、傷ついた。



パティは、結局インド音楽とインド思想に傾倒するジョージの心を理解できず、自分自身も孤独に苦しむ。


エリック・クラプトンも、長いツアーから帰ってきたのに、休暇はひとりで釣りばかりしている。


「わたしはなんだろう?」


パティは、エリックの心のなかへはいることができず、疎外感に悩む。


並外れた美貌に惹かれながらも、賑やかなパーティが一番大好き、という彼女に、ジョージ・ハリスンエリック・クラプトンも、心を託しきることができなかったのかもしれない。


二人の天才ミュージシャンに愛された<世界一幸福なはずの女性>が、ひどく寂しくみえてくる。