リー・イン監督の『靖国』(2007年)を見る。「靖国」をどうおもうかで、歴史観、戦争観が、明確にわかれてくる。
映画は、その2つに大別できるそれぞれの立場のひとたちの<8月15日>を描いている。
「靖国」を信奉することで、日本人の心を立て直そうと主張するひとたちが、一方にいる。
侵略戦争のシンボルとしての靖国を嫌悪し、参拝する首相に反対する、もう一方のひとたちがいる。
<8.15>には、この双方の主張が、「靖国」で激突する。
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「母は、いつも父を天皇陛下に殺されたといっていた。侵略戦争に加担した靖国に祀られて、父は無念だとおもう。英霊から籍をぬいてほしい」と、靖国側に要望を伝える中年の女性が、わたしには、印象に残った。
父を戦争で失った浄土真宗の僧侶は、部屋に、僧衣ではなく、軍服を着た父の写真を額におさめて飾っている。
「生命を尊厳しなければならない僧侶の父が、人を殺し殺される戦争にいかなければならなかったのは、どんな思いであったか。そのことを忘れないために、軍服の父の姿をあえて飾っています。
靖国は、英霊として祀られた父の除籍を許してくれない。戦死した父は遺族のものではなく、いまだに国家のものなのです」