山田太一脚本、主演が夏川結衣と渡辺謙、というだけでも見逃せない。そしてやっぱり、見てよかったです。
小さな工場のおかみを演じる夏川結衣は、生活感あふれる中小企業の経営者のおかみさんそのものなのに、むかしの恋人である渡辺謙が登場すると、美しい女になっていく。
男への思慕、甘え、それでも生活を放棄しようとはしない大人の抑制された理性・・・それを自然に役者として演じてしまう夏川結衣という女優に惹かれます。
いい女優ですね。若くて可愛い女優はいっぱいいますけど、わたしたちの世代には、年齢が若すぎず、身近に惹かれる年齢相応の女性として、すごくリアリティがあります。
女が誘えば、男はひるみ、男が誘えば、女は拒む・・・鎌倉のラスト・シーンを見ていて、なにか外国の映画シーンを思い浮かべましたが、具体的にそれが何かわかりませんでした。
あとで、ちょっとおもったのは、昔、若すぎたときに恋愛していた男女が別れる。その後偶然、女が引っ越してきて、隣同士の付き合いになる。それぞれ配偶者と子どもがいるが、二人の愛は再燃する。
女が誘うと男は拒み、男が我慢できなくなると、女は逃げようとする・・そんな男女のせめぎあいを描いた、フランソワ・トリュフォー監督『隣の女』(1981年)が思い出される。
『隣の女』の二人は、破滅的な恋愛に突き進むが、『遠まわりの雨』の二人は、最後のところで、自分の感情を抑制する。
いまのぼくは、どちらにも共感してしまう。