かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

木下恵介監督『野菊の如く君なりき』(1955年)


tougyoさんと知り合うきっかけにもなった作品。久しぶりに見て、また感動する。


墨絵をみるような画面の美しさは、子どものころ見たときよりも、さらに深く感銘を受けた。


この映画を見る限りでは、木下恵介は小津、成瀬、黒澤に匹敵する名監督だとおもう。じっさい、この原作『野菊の墓』は、何度か映画化されているけれども、木下版に比較できるものはない。



伊藤左千夫の原作は、千葉の松戸あたりが舞台で、一度その周辺を歩き、野菊の墓記念碑を見にいったことがある。


しかし映画が映す景色は、松戸周辺のものではなはなかった。松戸周辺は、こんなに山深くない。


木下恵介監督は、景色の美しさを優先するために、原作の松戸よりももっと深い山の連なる地方へ、ものがたりの舞台を移動させているようだ。




民子役の有田紀子は、この女優以外に考えられないほど可憐で、役にぴったりしている。


余談だけれど、堀北真希に似ていないだろうか。


杉村春子演じる本家のおばさんに、「おまえは正夫といっしょになりたいとおもっているのかもしれないけど、それはわたしが不承知だからね」といわれ、泣きながらよそへお嫁にいくことを受けいれるシーンは、何度見ても、悲しすぎる。



杉村春子というと、ちょっと意地悪なおばさんか、ユーモラスな役柄がおもい浮かぶけれど、この映画では、本家の奥さんの、気丈な母親の役を、みごとな存在感で演じている。


民子と正夫の理解者でありながら、世間の風評をおそれる農家のおかみさんでもあり、結果的に彼女の一言で、民子の悲劇を招いてしまう。



tougyouさんが、以前「青春映画の最高傑作」というような言い方をしていた。ぼくは、もちろん文句なく同感するのだが、、、


いまの若いひとたちの目にも、このものがたりは「青春映画の最高傑作」として、映るのだろうか。


世代を超え、感動を共有したい、と願いながらも、そんな疑問もちらっと浮かんだ。