かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

貴田庄著『原節子 あるがままに生きて』


原節子 あるがままに生きて (朝日文庫)
現役時代の映画雑誌などに掲載された、原節子本人の言葉や、彼女を直接知るひとたちの証言を引用しながら、原節子の生涯をたどっていきます。


文字量、情報量からいえば、以前読んだ、千葉伸夫著『伝説の女優原節子』 のほうが圧倒的なので、詳しく知りたいひとには、こちらのほうがおすすめ。


じっさい、著者の貴田庄(きだ・しょう)も、この本を書くうえで、千葉伸夫の本を参考にしたと、率直に書いています。


しかし、短時間の読書で、原節子のたどった道を、その素顔を知りたい・・・というひとには、こちらの本も悪くありません。



人づきあいが不器用で、役柄も狭い。若いときは「美人だけれど大根役者」といわれながら、黒澤明成瀬巳喜男、そしてなによりも小津安二郎の映画に出演して、日本映画でも類のない女優に成長していく経緯が、わかりやすく書かれています。


濡れ場も、水着シーンも拒否する、一種の頑固さが、彼女の清潔さを永遠にしていきますが、本人はそこまで計算しているわけではなくて、単純に、いやなことは役者だからといってやりたくない、という原節子流の自然な生き方を、ゆずらなかっただけのようです。


原節子は、役者として大成するよりも、自分の気持ちのままに生きることをもっと大切にした、と、いうことも、この本から伝わってきました。


大スターでありながら、自然体で謙虚に生きた原節子の人生は、著者も書いていますが、『麦秋』や『東京物語』で原節子が演じた<紀子>と重なってしまいます。