うちの娘が広島、尾道へ旅行してきたので、尾道の風景が出ているから、ということでいっしょに見る。ところが、かんじんの娘は途中で寝てしまい、結局後半、ひとりで最後まで見ることになった。
山村聡の住む堀切駅は、ホームだけが映っている印象があったが、その前に一瞬だけ、小さな駅舎が映った。
この小屋のような建物が、いまもほとんど姿を変えず残っているので、一瞬の映像ながら、感慨深い。
芝居らしい芝居を好まない小津演出で、どの役者も感情を抑えた表情で、短いぶつ切りの会話をするのはいつものとおり。笠智衆はもちろんだが、山村聡の短いあいづちが印象に残る。
それから、いつも思うのだけれど、この映画の中村伸郎が好きだ。杉村春子が映画でもっとも強烈な人物なので、その夫として、ひょうひょうとした言動に味わいがある。
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杉村春子は、演技の達人ぶりを容赦なく発揮するが、少しほかの役者から際立ちすぎるようにも思えなくない。何度も見ているから、そういうところに気がつくので、普通に見れば、それほど気にならないのかもしれないが。
ただ、そんなふうにおもってしまうほど、杉村春子は小津映画のなかでひとりだけ、のびのびと自由な演技をしているようにみえてしまう。
笠智衆が東野英治郎とお酒を飲んで、二人が泥酔して美容院へ帰ってきたときの、杉村春子の当惑する演技は何度見ても笑ってしまう。
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有名なラストに近い笠智衆と原節子の、
「あんたはいいひとじゃよ」(笠)
「いいえ、わたしはずるいんです」(原)
とつづく一連の会話。
笠智衆が淡々としているだけに、原節子の表情の変化が、少し過剰すぎるようにみえる。クライマックスだし、名場面といえば名場面で、映画としては、観客の感情を強くゆさぶらなければならないシーンだから、これでいいのだろうけど、何度も見ていると、小津作品にしては、原節子の表情に感情が露出しすぎているような気がした。
もっと前にある香川京子との対話シーン、
「人間っていやねえ」(香川)
「いやねえ」(原)
とあいづちをうちながら笑う、あのくらいの表情でよいのではないか、とおもう。
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白黒映像で見る尾道の景色は、いつ見ても美しい。
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